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休日の電車は満員というほどではないが、込み合っていて、年配の人や学生らしき人たち、休日でも仕事らしきスーツ姿のサラリーマン、子供の日なので小さな子供連れの家族など、年齢も様々な人たちが乗っている。
この同じ車内に乗り合わせている人たち、一人一人にも名前の由来になった理由や意味が存在する。
母親の手を握る小さな手の子供も、きっと両親や祖父母が幸せを願って名づけたのだろう。
時には自分の名前が好きではないという人もいるけれど、立夏は自分の名前を気に入っている。
理由は知らないけれど、母親がつけてくれた名前が好きだ。
『りつか』という名前はそうある名前ではないが、よくある同じ名前でも意味や理由は違う人もいるかも知れない。
そういう違いや色んな人がいるんだ、ということが単純に面白いと思う。

「名前って面白いね。1人1人に意味とか理由とかみんなあるのって」
ユイコの言葉に「そうだね」と頷いている弥生に、立夏は笑う。
「オレも今、同じこと考えてた」

立夏は電車の窓から見える流れる景色や空を眺め、思う。
こうして同じ電車に乗り合わせて、もう二度と会うこともない人もいて、きっとその方が多いのだろう。
ただ、それぞれの理由や事情で目的地へ向かうために乗り合わせただけの人たち。
ユイコや弥生と出会って仲良くなって、こうして一緒にいられることがとても大切に立夏は思っている。
この世にはすれ違うこともなく、名前も顔も、その存在すらも知らぬままに生まれて死ぬ人の方が多いのだ。
自分もまた同じで、存在すら知らないまま出会うことも名を知ることもない人が沢山いるのだろう。
そう思うとこうして、ほんの数分でも同じ場所に居合わせることすら、凄い確率に思える。
そう考えたら、きっかけは何であれ、草灯と出会えたことも一緒にいることも大切なことだ。
きっと、草灯は清明の命令がなければ自分のところに来なかったのだろうけど、理由は何であれ出会えたことが嬉しいと単純に思う。

今日が夏の始まりの『立夏』だと知っている人がどのくらい、今この同じ電車に乗っている人たちの中にいるんだろう?
誕生日とは関係がないのかも知れない、名前の由来の季語。
誕生日と同じく、今日は立夏にとっては特別な日なのだ。

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