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電車を降りて話しながら歩くうちに画材店に着き、二人はそれぞれに筆や絵の具を見る。
「それ、キレイだな。なに、ブルーばっかり?」
草灯が買うつもりで選んだらしき絵の具は、濃淡の違うブルー系の絵の具ばかりだ。
「ブルー系でまとめてみようかと思って」
「一色てのもいいね。今描いてるやつ?」
「いや、今のとは別」
「もう次考えてんだ?」
草灯は答えずに選んだ絵の具を購入し、キオも必要な絵の具を買って店を出る。
「次の構想決まってんの?」
「課題とかじゃなくて、個人的に描こうと思って」
夕食がてらに飲みに行くことになり、まだ飲みに行くのには時間が早くて店も開いていないので、ブラブラと歩きながら時間を潰す。
「個人的に?余裕じゃん。まぁ描きたいものって色々あるしな」
草灯の話を聞いてキオもヒマみてオレも描こっかなァと呟く。
「立夏に描いてあげる約束してるんだ。前に画材見るのに付き合ってもらった時にブルーが好きらしくてキレイだって言ってたから」
「ふーん…」
機嫌よくしていたキオの表情が僅かに変化する。

今、自分がどんな顔をしているかわかってないんだろうなとキオは思う。
立夏の名を口にして彼の話をする時の草灯を見ていると、キオは複雑な気分になる。
立夏の話をしている時に草灯が浮かべる笑み、その笑い方は立夏と関わるようになって初めて見た。
笑い方にも、色々ある。
面白い時、嬉しい時、感情や状況によって笑顔にも種類がある。
いつもにこやかに笑っているからといって、必ずしも表情と感情が一致しているわけではなく、愛想笑いというものもある。
立夏の話をしている時の草灯は、穏やかな笑みであったり、柔らかい表情だ。
相手を大事に思っていなければ、そんな表情は出来ないだろう。

「絵描いてやるんだ?」
名前が出た以上、無視して話題を変えるのもわざとらしく、聞いてしまったので諦めてキオは聞いてみる。
「あまりはしゃぐタイプじゃないんだけど、絵を描いてあげたらすごく喜んでくれてね。あんな風に笑って喜んでくれるなんて滅多にないし」
(あーあ、嬉しそうな顔しちゃって)

キオは立夏の話だけは草灯に幾度となく聞かされているが、まだ本人に一度も会ったことはない。
誰かのために何かしてあげたい、笑ってくれる顔が見たくて、なんて……。
結構、本当に本気なのかも知れない──。

なんとなく、意地悪してやりたくなる。

「今日はもう立夏の話はナシ!いつもいつも惚気話聞いてやるほど、お人よしやってらんないし」
適当な店に入って飲み物とつまみを注文してからキオが言う。
「惚気かな」
「充ー分っ!でしょお!ほぼ毎日、立夏立夏ってさぁ」
「そうだっけ?」
「自覚ないわけね」
「子供ってあんなにかわいいと思わなかったな」
火をつけた煙草を吸うでもなく、呟く草灯にキオははぁ、とわざとらしく溜め息をつく。
「それがノロケだっつーんだよ」

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