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答えられない立夏は、ふとコートのポケットに両手を入れていることに気付く。
なんとなく、拒まれているように感じた。
言葉は必要とされたがっているようでも、心を閉ざしているような気がする。それが立夏にはひどく寂しく感じる。
「なに?」
草灯のコートの袖をそっと摘むと、草灯の声が普段の優しい声音に戻った。それだけでほっとする。
怖いわけではなかったが、そういえばと立夏は思い出す。

草灯は戦闘の時は声のトーンが少し低くなる。
草灯は敵には容赦がない。
あまり興味のない相手にも、そうだ。
さっきみたいな低い声で話す。
だからかも知れない。

「手をつなぎたい」なんて言うことは出来ずに、立夏は草灯の問いかけには答えない。
言えば、草灯はすぐにそうしてくれるだろう。
手をつないで欲しいなんて、恥ずかしいというのもあるけれど。
自分の言葉が何でも「命令」になってしまうのは嫌だと立夏は思う。
言わない代わりに草灯の腕を引っ張り、ポケットから手を出させて手をつなぐ。
草灯は体温が低そうに見えるが、触れれば熱いくらいで、暖かい手に安堵する。
指を絡めるように握ると、何も言わなくても気持ちが伝わるような錯覚すらしてくる。
「手、つなぎたかったの?」
くすっと笑う草灯に立夏はかぁっと顔が熱くなる。
「だって、オレが言ったら草灯には「命令」になるんだろっ?」
むっとして言う立夏に草灯は少し驚いたような、意表をつかれたような表情をして、それからふっと笑う。
「お願いと命令は違うと思うけど?」
「どっちだって同じだろ。オレが言うことならなんでもきくって、それって命令じゃん。同じだって、今おまえが言ったんじゃん」
「ああ、そうか。そういうことになるかな」
「なぁ、草灯。本当に必要なことなら、命令しなきゃいけないってこと、オレもわかったよ。でも、なんでも命令することはしたくないんだ。
草灯にとって、命令する側とされる側だけなのは、嫌だ」
足元に視線を落として言うと、草灯がぎゅっと手を握り返してくる。
「そういうことじゃなくて…。風呂に入ってる時にシャンプーがきれてたって、困ったことじゃない?困った時は言って。こんな風に髪が濡れたまま外に出て風邪ひいたらどうするの。もし、夜に一人で出かけて何かあったらどうするの?
そういうことも頼めないんじゃ、いざって時に命令出来ないんじゃないのってこと。不用心だし無防備過ぎる」
心配からの言葉なら、最初からそう言ってくれればいいのにと思う。
同じようで違うのだと草灯に、今度は立夏も納得が出来た。
「おまえさ」
「うん?」
「スペルを操る者とか言って、実はコミュニケーション苦手だろ。会話ってのはちゃんと伝わらないとダメだし、おまえの言い方って誤解されたり本心が伝わらないんだよ」
立夏が言うと草灯は一瞬真顔になり、それから肩を揺らしてクスクスと笑う。
まいったなと思う。
「立夏はすごいね」
「なにが?」
「鋭いなーと思って」
「バカにしてんの?」
「褒めてるんだよ」
「フーン。(全然そんな風に思えないけどな)
ガキだからって見くびってるだけなんじゃねぇの?」

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