言葉のチカラ
夜、草灯が立夏の部屋に行くと、立夏は机に向かっていた。
「宿題やってるの?エライね」
「べつに偉くはないだろ。宿題なんだから」
宿題はやって当然のものだから偉くはないというマジメな答えは立夏らしい。
草灯はローリングの床に座って机に向かう立夏を眺める。
「宿題やってるから、遊べないぞ」
「いいよ」
遊べないだなんて可愛いことを言うなぁと草灯は思う。
立夏を見ているだけでも草灯は飽きない。だから特に何かをして「遊んで」もらえなくても問題はなく、一緒に居るだけでもいいのだ。
「邪魔したら叩き出すからな」
くるりと振り向いた小さなご主人さまの言いつけに、草灯は「はい」と聞き分けのいい返事をする。


ベッドの枕元に置いてあった読みかけの本を草灯は手に取る。
立夏がどんな本を読んでいるのかと見ていた草灯は、一定の間隔で鳴る、時計の秒針の音のように机をペンの先でコツコツと叩く立夏が気になった。
その音が止まると、ふー…と立夏は息をつき、しばらくするとまたコツコツとペンで机を叩く。
何度かそれは繰り返された。

「難しい問題なの?」
背中を向けて机に向かっている立夏に聞くと、立夏はぴくんとミミを動かし、体の向きを変えて振り向く。
「そういうわけじゃないんだけど」
「ずっと考えこんでるみたいだから、よほど難しいのかと思ったけど。オレが居たら集中出来ない?」
草灯が言うと立夏は黙ってしまう。
草灯がいるから集中出来ないのではなく、夕方からずっと宿題に悩んでいたのだ。
立夏はしばらく沈黙してから、はー…と息を吐き出して椅子から立ち上がってベッドに腰掛け、立夏に向き合うように草灯も座り直す。

「なぁ…草灯にとって『言葉』ってなに?」
立夏は床に座る草灯に聞いてみる。
ベッドに両手をついて首を傾げて聞いてくる立夏の様子が愛らしいと思う。
宿題に関する質問なのだろうかと思いながら、草灯は少し考える。
「すべて、かな」
「どういう意味?」
興味深そうにさらに聞いてくる立夏に、笑みを浮かべて逆に聞き返す。
「どういう意味だと思う?」
「え…(オレが聞いてるんだけど。つーか、わかんないし)」
聞き返されても草灯が考えていることなんてわからず、立夏は困った表情をする。
そんな立夏に草灯は柔らかい笑みを向けたまま話す。
「そのままだよ。
戦闘機にとっての言葉は武器でもあり、サクリファイスを守る盾でもある。サクリファイスの言葉は命令でもある」

草灯の答えは、なんとなくわかっていたような気もした。
そう答えるとわかっていたような気がする。

宿題は「言葉」や「会話」について考える、というもの。
自分にとっての言葉とは何か?ということを作文に書くのだ。
算数なら答えはひとつしかない。
だけど、こういう題材で自分の考えを書くことは、立夏は少し苦手意識がある。

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