好敵手
土曜の午後、立夏は草灯の家に遊びに来ていた。
しかし草灯は電話がかかって来て、用事で出掛けてしまった。
1時間ほどで戻ると言うので、立夏は草灯の家で一人で留守番をする。

草灯が出かけている間、床に座ってゲームをして10分程経った頃。
ガチャッとドアが開いて立夏はてっきり草灯が帰って来たのかと、それにしてはずい分と早い帰宅だと思いながら振り向くと、そこには見知らぬ大人がいた。
「あれ……」
相手も呆然としている。
「えーと…。草灯なら、出掛けてるけど…」
訪ねて来ていきなりドアを開けたのなら、たぶん草灯の知り合いなのだろう。そう判断して誰かわからないが、立夏はこの部屋の主は不在だと伝える。
「すれ違ったかな…」
ガリガリと頭を掻いて来訪者は入りこんで来る。
若い男だ。
草灯と同じくらい背が高い。
(草灯の友達かな)
ミミがない。
(大人だ……)
見知らぬミミなしの大人に立夏は少し警戒する。

「今日はチビどももいないのか」
部屋の中を見渡して言う来訪者に立夏は答える。
「奈津生と瑶二なら出掛けてる(って言ってた…草灯が)」
奈津生と瑶二は今日はゲームを見に昼前に出掛けたと立夏は草灯から聞いていた。
来訪者はどうやら奈津生や瑶二とも顔見知りらしく、もしかしたら草灯じゃなく奈津生と瑶二の関係者なのかと思い、立夏は二人も留守だと伝える。
「おまえさん、立夏だろ?青柳立夏。
草ちゃんが持ってた写真見たよ。オレはキオ。海堂貴緒です」
キオと名乗る大人に立夏はミミをピクピクとさせる。
立夏は自分も名乗った方がいいのかなと思うが、相手は自分を知っているようなので、気になることを聞いてみる。
「草灯の友達?(キオ…前に草灯が言ってた人…?)」

「キオ」という名は聞き覚えがある。
以前、「ゼロ」と名乗る女子高生たちに草灯がやられた時、立夏は奈津生と瑶二に初めて会った。
その時、草灯が奈津生と瑶二に「本当はキオを呼びたかったんだけど」と言っていたことを、立夏は思い出す。

(ピアスいっぱい…)
立夏はじーっとキオを見つめる。
キオは立夏のすぐ傍に座る。
「いっぺん、会ってみたいと思ってたんだよな。
ふぅん…清明と似てんね」
「清明のこと知ってんの?」
ミミをピンと立てる立夏にキオはわずかに眉を寄せる。
「知ってるよー。オレは嫌いだけどね」
キオが言うと今度は立夏が眉を寄せる。
「みんな、言う。清明がヤなヤツだって…。あんたも、そうなんだ…」
ミミを伏せて怒ったように立夏は言う。

立夏にとって清明を悪く言う人間は敵にも等しい。
しかし、このところ清明を知っているという人間は、清明に対していいことは言わない。
そのことに立夏は疑問があり、不安もある。
清明を知る者は「ヤなタイプ」だとか言うが、あの優しかった清明が…と、立夏にはどうしても信じられない。
よく知らない他人の言葉より、自分の知る清明の方が立夏には本物だと信じている。

「身内悪く言われて腹立つのは当然かも知れないけどね。
あんな人でなし、どっかで恨み買って殺されるのも当然て思うけど」
「違う!清明は…兄貴は誰かに怨まれたりする人じゃない」
射るような目付きで立夏はキオを睨む。
そんな立夏にキオは動じることなく顔色ひとつ変えない。
その表情から不快を感じとって、立夏もミミを伏せて威嚇的な態度を崩さない。
「少なくともオレは怨んでるけど?いなくなればいいって思ってたよ」
「なんで…」
初対面の人間に何故そんなことを言われるのか、清明をどこまで知って言っているのか、立夏はミミを伏せてしっぽを膨らませる。
「草ちゃん…草灯を人とも思わないような扱いをしてた。奴隷みたいにね。清明といた頃の草ちゃんはいつもボロボロだった。まるでゾンビみたいだった。
おまえ、自分の友達が誰かにそんな風にされてたら許せるか?」
「それは……。でも…清明が、そんなことするなんて……」

Next≫
≪カップリングmenu
小説トップ
HOME
無料ホームページ掲示板