2p
「誕生日、って草灯の?」
「うん」
「いつ?今日?」
「そう」
立夏は口元に手をやり、急に黙り込むと何か考えているようだ。
それから、「ちょっと待って」と言って、首から下げた携帯電話を開き、どこかに電話を掛ける。
「勝子先生いますか?……あ、じゃあ今日は行けなくなったって伝えて下さい。それと来週の予約お願いします」
立夏は毎週通っているカウンセリングの担当医に今日は行けないことを言おうと電話したのだが、今は患者さんがいるようなので、今日の予約の取り消しと来週の予約をする。
予約の確認を待つ間に草灯が顔を近づけて来る。
「勝子センセーて誰?」
耳元で聞いてくる草灯にびくっとして立夏は草灯の体を押し退ける。
「うるさいなっ。待ってろってば(邪魔すんなっ)」
(先生…予約?)
何の先生だろうかと草灯は考える。

「先生」と呼ばれる職業は沢山ある。
学校や塾の教師、習い事の師範、歯医者や病院の医師。
それから画家や作家、音楽家なども「先生」と呼ばれる人間がいる。
あとは政治家、議員なども「先生」だ。
立夏が関わりがあるといったら教師や医師だろうか。
それから少し話して立夏の電話は終わる。

「勝子センセーって?何のセンセイ?」
「病院の先生だよ。お医者さん」
「病院?」
どうやら立夏は毎週、水曜日に通院しているということらしい。
立夏は怪我は多いけれど健康で毎週通院するほど体が悪いようには思えないので、歯医者だろうか?
草灯が考えていると立夏は先に歩き始め、草灯を振り返る。
「いいから。行くぞ」
「病院に?」
「違う。知らなかったから…プレゼント用意してないし。だから」
「だから?」
立夏の後をついて歩く草灯に立夏は隣に並ぶと、草灯の手を握る。
「デートしてやる」
「本当?病院、いいの?」
立夏の小さな手をきゅっと握るって聞く。
「来週行くからいい。べつに行ってもあんまり変わらないし。
行くの?行かねぇの?」
「立夏、ありがとう」
病院の予約をキャンセルしてデートしてくれるという立夏に、草灯は嬉しくなって小柄な体をぎゅっと抱きしめる。
「っ、いちいちくっつくなよ」
下校する生徒が他にもいる中で、恥ずかしくなって立夏は顔を赤くしてぎゅうぎゅう抱きついてくる草灯の体を押す。
「いいじゃない、デートなんでしょ?」
にこにこと笑う草灯に立夏ははぁ、と息をつく。
「これじゃ歩きにくいだろ」と言うと、草灯は立夏の体を解放してしっかりと手を繋ぐ。

「どこ行く?」
「どこでもいいよ。立夏の好きなところ」
「草灯の誕生日なんだから、草灯が決めろよ」
にこにこと機嫌よさそうに笑う草灯に、立夏はミミをぴくぴくと動かす。
こんな風に嬉しそうな笑顔を見せられると、なんだか少し照れくさいけど悪い気はしない。
「立夏が行きたい場所がいいな。どこでもいいよ、オレは。
立夏と居れるなら」
「じゃあ、あんまりいいものあげれないけど、プレゼント買いに行こう」
長いしっぽを振って笑みを見せて立夏が言う。
「あ、それなら欲しいものがあるんだけど」
「なに?あんまり高いものはあげられないぞ。(そんなに持ちあわせてないし…)」
「お金じゃ買えないものだよ」
「???」
きょとんとしている立夏に、草灯は「あとでね」と言い、二人で誕生日の思い出作りのデートに向かった。

誕生日だからワガママをきいてくれるだろうか?

〜END〜

「我妻祭」投稿作です
草灯のお誕生日話ですが、最後はお約束で、草灯の欲しいものはおわかりになるかと(笑)
ワガママっていうか、普通にいつも言ってる気が…
投稿時は「小さなワガママ」というタイトルでしたが、どこらへんが「小さい」「ワガママ」なのかよくわからなかったので、変更しちゃいました
おそまつでした〜
最後に草灯お誕生日おめでと〜
初出/05.9.28
再録/05.10.2

≪Back
≪季節行事menu
小説トップ
HOME
無料ホームページ掲示板