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「今、外見える?雨止んで虹出てる」
「うん。見えるよ。きれいだね」
草灯の声は心地いい。
だけどこうして電話で、耳に直接聞こえる声はどきどきする。
(会いたい……)
もう何日、草灯に会っていないだろう?
声を聞いたら会いたくなった。

「今日、七夕だな」
「そうだね。雨も止んだし」
彦星と織姫は会うことが出来る。
でも、自分は?
生きているんだから会いたいなら会えばいい。
だけど「会いたい」というたった一言を立夏は言い出せない。
「立夏ってロマンティストだね」
「は!?なにそれっ」
草灯の言葉に立夏はどきっとして無意識に拳を胸に押し当てる。
「七夕だから、電話してくれたんじゃないの?」
「……ヤなやつだな、おまえ」
「どうして?」
どうして、と聞きながら草灯は笑っているようで立夏はむっとする。
どうして、と言いたいのはこっちだ。
どうして言い難いことをさらりと聞いてくるんだろう。
(こいつ、わざとだ…)
言い難いとわかっていて、わざと聞いているのだ。
相手は8つも年上の大人。何もかもお見通しのようで悔しい。
「雨が止んだから、立夏に逢いに来たのに」
「はっ?おまえ、どこにいんの?」
立夏は急いで校門に向かう。
もしかして──。

「来ちゃった」
携帯を耳に当てたままにっこりと笑って言う草灯に立夏は茫然と長身を見上げる。

草灯とは逢える。
逢いたいと思えば逢える。
母親のために「立夏」でいるだけじゃなく、自分のために生きてみたいと少しずつ思い始めたのは草灯やユイコと出会ってからだ。
草灯も会いたいと思ってくれていたことを嬉しく思う。

「おまえの方がずっとロマンティストじゃん」
少し頬を赤らめながら立夏は言う。
「立夏にお願いがあるんだけど。
聞いてくれる?」
立夏はかたちのいいミミをピクピクさせる。
「内容による。けど…聞くだけなら聞いてやる」
何を言われるんだろうかとドキドキしながら立夏は答えると、草灯はゆるく微笑む。
「オレのお願いは、立夏がもっとオレのことを好きになって欲しいってこと」
「っ…な…ん、だよ…それ…」
ぱっと目を逸らして立夏はしっぽを毛ばだたせ、大きく左右に振る。
「星に願掛けするよりも、本人にお願いした方が効果的でしょう?」
「………」
どう答えたらいいか立夏は迷う。
正直に言えば、これ以上ないくらい好きだと思う。
素直になれなくて、好きだなんて言えない。
声に出すことが出来ない分だけ、立夏の心の中では気持ちだけがどんどん大きくなっていて困っている。
視線を足元に落としたまま、しっぽの先で自分の腕を撫でながら立夏は答える。
「じゃあ、さ…」
「なに?」
「いま、オレが何考えてるか…当てられたら……。
考えてやるよ…」
ミミを伏せて言う立夏を草灯はぎゅっと強く抱きしめる。
「っ……!」
突然のことで立夏は一瞬、呼吸が止まった。
当てられたらなんて言ったけど、本当は何も考えてはいなかった。
ただ、草灯がどういう反応をするのか知りたかった。
「わっ、ぁ…!」
抱き上げられて急な浮遊感に立夏は思わず草灯に抱きつく。
「立夏がオレにして欲しいこと。違った?」
「………」
目線が合う高さになって、立夏はミミをピクピクとさせながら頬を赤くして睨むように草灯を見つめる。

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