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「嫌いなのに複雑だな、それは」
「いや、べつに?」
「…ああ、そう…」
あっさりと否定する草灯にキオは呆れる。
嫌いなものを「べつに」というあたり、この男の変態加減も極まれり、だろうか。

高校生の奴隷になっていて、その相手が死んだかと思えば、今度はその弟の小学生のストーカーをしている。
キオは草灯を奴隷のようにしていた青柳清明なる人物が嫌いだった。
清明がいた頃の草灯といえば、それはもうひどいもので、四六時中怪我が耐えなかった。
怪我をした草灯の手当てをしたこともキオは何度もある。
どこで、誰に、何故そんな傷をつけられたのか、聞いたことはない。
聞いたところでどうしようもないからだ。
本人が病院や警察に行く気がないのに、他人がどうこうしようもない。
清明にやられているわけではなくても関わっている限り、そんな怪我ばかりするのかと思うと、清明を好きにはなれなかった。
もうやめろ、と言ったこともあるが、草灯は「いいんだ」と言って取り合いはしなかった。
清明が死んでようやく草灯は、もうあんな風に怪我することもないだろうとキオは喜んですらいた。
これで草灯は自由になって、普通に学生に戻るのだと思った。
そう思っていたのもつかの間。
清明の弟、それも小学生に今度は自分からつけ回している。

しかし、清明の弟である立夏に関わるようになってから、草灯は少し変わりつつあるようにキオは思う。
どこが、とは具体的には言えないけれど、雰囲気も違う気がする。
背も高いし顔もいい方だし、なかなかいい男だと思う。
人あたりだって悪くはないので、実際モテないわけではない。
その気になれば結構な美人が彼女に出来るだろうに。
いかんせん、変態なのが問題かも知れない。
小学6年男子に夢中というのも、人としてどうかと思うくらいだ。

今は清明の時から比べて怪我も減った。
授業を抜け出していなくなったかと思えば、立夏のところへ行っている。
キオは草灯の持っていた写真で顔は知っているが、青柳立夏という人物に少し興味がある。

「立夏に貰ったから好きになったとか言わないだろうな」
草灯が「立夏」「立夏」と言うので、キオもいつの間にか「立夏」と言うようになっている。
嫌いなものすら好きにさせるのなら、草灯の中での立夏という存在は相当なものだろう。
「それとこれは別」
「わっかんねー」
「単純なことだよ。立夏がくれたものだから、特別なだけ」
「あー、はいはい。本気で犯罪にならないように気をつけな」
蝶が嫌いなことに変わりはないようだが、なんだか惚気られたようでやってられない気分になってくる。
「犯罪って?」
「ガキに手ェ出して“ガチャン”てやつ。それは人としてどうかと思うよ。
まあ、そうなっても友達やめないでおいてやるよ、俺はね」
両手首を合わせて手錠をかけられる真似をして見せて、キオは言う。
「それはありがとう。でもそれはないな」
「どうだか?」
「子供相手にそんなわけないでしょ」
「これだけつけ回しといて、ないって言われても信じらんないよね」

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