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「じゃあ、何か考えておくよ」
そう言って草灯は立夏の柔らかいさらさらとした黒髪を撫でる。
その大きな手に撫でられるのは嫌いじゃない。
清明がそうしてくれたように、今は草灯が頭を撫でてくれる。
「…本当にいい。なにもいらない」
ふっと笑って立夏は草灯に答える。
その表情が寂しげだということを、立夏は自分ではわからないのだろう。

強がって意地を張ってはいるけれど、立夏はまだ11才の子供なのだ。
自分の寂しさから目を逸らしているだけ。

人もまばらな深夜のファミレスは若いカップルや学生同士と思わしき集団などが数組いるだけだ。
立夏は眠いのか目を擦りはじめ、うとうとしている。
「立夏、眠い?」
「ん…」
喋るのも億劫そうな立夏の肩を引き寄せて、自分に寄りかからせるとコートを掛けてやる。
眠気のせいか抵抗もなく立夏は目を閉じてしまう。
時間は23時の少し手前。
早起きな立夏はいつもなら寝ている時間だ。
普段なら帰るところだが、今日はこのまま帰ることはしない。
今はそのまま立夏を眠らせておく。
意識は眠ってはいるけれど、立夏の頭上のミミは時折ぴくぴくと動いて聞き耳をたてている。
完全には熟睡していないらしい。
草灯はコーヒーを飲みながら煙草を吸い、持たれかかって寝ている立夏の様子を眺める。

「……を。それとケーキを…」
(ケーキ?)
眠りながら立夏は聞こえてきた草灯の声を聞いていた。
こんな時間にケーキなんて食べる気なのか。もの好きだなと立夏はぼんやりと思う。
それにしても眠いし、帰ってちゃんと寝たい。
(ヘンな奴……)
草灯の考えや行動はさっぱりわからない。
秘密ばかり、隠しごとばかり。
知っていることは僅かなことだけ。
何にも知らないのと同じだ。
謎ばかりで何を考えているかなんて、まったくわからない。

「立夏」
「んん……」
揺すり起こされても立夏はなかなか目を開けられない。
「起きて、立夏。日付が変わるよ」
んー、という抗議なのか眠気を訴える声を立夏は発しながら、のそっと座り直す。
目を擦ると目の前のテーブルにはケーキが置いてあった。
そして草灯は自分の携帯の画面を見せてくる。
「あと1分で日付が変わる。0時になったら、立夏の誕生日だ」
「……え?」
寝ぼけ眼で立夏はぱちぱちと大きな目を瞬きさせて、隣に座る草灯を見上げ、携帯の画面を見る。

携帯の画面のデジタルの日付と時間が、12月20日の23時59分から12月21日の0時00分へと変わった。

その瞬間に、草灯は「誕生日おめでとう」と言った。
「???」
眠くて状況を今いち把握出来ないまま、立夏は草灯をぽかんとして見上げると、柔らかい微笑みを向けられる。
「もう、今日は立夏の誕生日だよ。
12才、おめでとう」
「……。(あ、そうか…そういうことか)
ありがとう…」

日付が変わると同時に、祝われたのは初めてだ。
とは言っても、立夏は2年間の記憶しか持たない。
だけど、草灯は日付が変わるのと同時にお祝いをするために、この時間までここにいたのだろう。
その気持ちは単純に嬉しかった。

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