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せっかくの清明の誕生日なのだから、今、母親と顔を合わせてゴタゴタしたくない。
そう思っていたけれど、案の定というべきか立夏の希望は叶わなかった。
立夏を睨むように見据える母親に清明は遮るように、立夏を背中に庇う。
「立夏、部屋に行ってなさい」
「でも…」
「いいから」
言われた通り立夏は逃げるように清明の部屋に向かう。
ドアを閉めても母親の喚く声が聞こえてくる。
清明の低い声はあまりよく聞こえないが、母親をなだめているようだ。
立夏はミミを寝かせてぎゅっと両手を握り締める。

耳を塞いでしまいたい。
だけど、清明が…誕生日なのに、清明は自分のために母親をなだめてくれている。
イヤな思いを兄にさせているのに聞きたくなくて耳を塞いで逃げるのは卑怯だと思う。

しばらくすると清明は部屋に入って来た。
「困った人だな…」
開口一番に母親をそんな風に言う。
「いくら機嫌が悪いといっても、こんな時間に寒い中外に居させるなんて」
「違うよ。母さんに出されたんじゃなくて…」
清明に母親をそんな風に言わせているのは自分で、母親は自分のせいで…そう思うと立夏はいたたまれない。
「わかってるよ。立夏はオレが言った通りにしただけだろう。
だけど、小学生を寒空に冷えきるまで外に居させるなんて間違ってる」
「オレが……。
ごめん、清明…」
俯いてミミを下げる立夏の隣に座り、清明は立夏のミミを撫でる。
「どうして立夏が謝るの」
「だって……(オレのせいだ…全部…)」
「おまえは何も悪くない。気にしなくていいよ」
清明はいつもそう言ってくれる。
だけど……。
今日だけは、庇ってくれることに対して罪悪感を感じる。
ゆっくりと隣に座る兄を見上げると、優しい瞳と視線が合う。
「あっ…。あれ?」
立夏は清明に渡そうとプレゼントを渡すが見当たらない。
もしかしてさっきまでいた玄関に落として来たのかと焦る。
「これのことかな」
清明はさっき立夏が外で寝ていた時に、立夏の足元に落ちていた封筒を拾っておいた。
それを出すと立夏は「あっ!」と声を上げる。
「はい」
兄が差し出してくる封筒を受け取りかけて立夏は手を止める。
「どうしたの」
「それは、清明のだから」
「オレの?」
「うん。今日、清明の誕生日だから」
「ああ…プレゼント?これ、くれるの?」
立夏は清明の言葉に頷く。
「誕生日、おめでとう」
しっぽの先をピコピコ振りながら立夏は大好きな兄の誕生日を祝う。
「ありがとう」と言って清明は立夏の頭を撫でると、ようやく立夏は笑顔を見せた。
「図書カード?と、こっちはブックマーカーか」
立夏からのプレゼントの封筒を開けて清明は言う。
ブックマーカーは手作りのものだとすぐにわかった。
薄い金属板に「SEIMEI」と名前が刻まれている。
手先があまり器用ではない弟が自分のために作ってくれたものだ。

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