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おしるこを食べ終えて店を出て、少し離れた場所にある植物園へ向かう。
「冬って花咲かないのかと思ってた」
「冬に咲く花もあるんだよ。でもここは春みたいに暖かいから、色んな花がまだ見れるね」
温室の中は草灯が言うように春のように暖かい。
コートを着ているのが不似合いなほどだ。
「……あ、あれ?(ない…なんで?)」
立夏は写真を撮ろうと思い、いつも持ち歩いている肩下げバッグの中を探るが、いくらバッグの中を探ってみてもデジカメがない。
「どうしたの?」
焦った様子でごそごそとバッグの中に手を入れている立夏に草灯が聞くと、立夏は困った顔で草灯を見上げた。
「カメラがない…」
「え?」
「どうしよう…」
震える声で言うと、立夏は泣きそうな顔をする。
「よく探した?コートのポケットは?」
草灯が聞くと立夏は真っ白なコートのポケットに手を入れるが、入っているのはポケットティッシュや飴玉だけだった。
「草灯、持ってないよね…」
「預かった記憶はないな」
草灯が答えると立夏は見る見るうちにミミがしゅーんと下がってしまい、本当に今にも泣きそうな顔をする。

デジカメは高価だ。
メモリカードだって一番容量の多いもので、カードは小さくても数千円する。
なくしたからまた買えばいい、というものではない。
小学生が買える金額ではないが、それよりも、立夏は思い出の写真がなくなることの方が悲しい。
あのデジカメにはここ最近撮った写真も入っている。
1枚1枚は日常のなにげない、他愛のない写真だけど、立夏にとっての写真は大切な「記憶」でもある。
あれを失ってしまったら、楽しかった記憶を失うのも同然だ。
大切なデジカメをなくすなんて、立夏にとってあってはならないことだった。

下げたミミをプルプルと細かく震わせる立夏に、草灯は思い出した。
「さっきの店…立夏、デジカメ見てたでしょ。あそこに忘れて来たんじゃない?」
さっきおしるこを食べた店で立夏はデジカメを確認していた。
あの店を出てから近くに湧き出ている甘露水を飲んだり、何箇所か少し立ち寄ったのだが、立夏が写真を撮っていた記憶が草灯にはない。
最後に立夏がカメラを手にしていたのは、あの甘味処だったと思う。
草灯に言われて立夏もはっとする。
デジカメは高価なものだし置き忘れたなら、もしかしたら見つけた誰かがそのまま持って行ってしまってるかも知れない。
「取りに行かなきゃ…あれはオレの思い出の写真が入ってるんだ!あれがなくなったら…っ」
立夏の大きな目からぽろりと涙が落ちた。
涙がこぼれて立夏は自分で驚き、ごしごしとコートの袖で涙を拭う。
まさか泣くなんて思わなかった。
そんな立夏の頭を草灯はそっと撫でる。
「泣かないで。大丈夫。もしかしたら店の人が気付いて取っておいてくれてるかも知れない」
「ウン…」
こくんと頷いて立夏は目を擦る。

甘味処に戻って、カメラがなかったかと店員に聞いてみると、白衣姿にエプロンをつけた店員が店のレジの下からデジカメを出した。
「あっ…!」
「さっきお客さんと同じ席に座った後から来たお客さんが、椅子に置いてあったから忘れものだろうって」
店員はそう言ってカメラをいじる。
「一応、持ち主か確認を…これ、撮った写真が見れるんですよね?」
立夏は早く取り戻したくてうずうずしているが、一応持ち主かどうか確認しようと店員はカメラをいじる。しかし「年のせいかこういうものに弱くてねぇ」と店のおばちゃんは言う。
「貸してもらえますか」
草灯はカメラを受け取り、デジカメの液晶画面に2人で一緒に写った写真を呼び出して確認してもらう。
確認をしてもらって草灯が立夏にカメラを渡すと、立夏はしっぽをぶんぶん左右に振り、「ありがとう」とお礼を言う。
喜んでいる立夏におばちゃんはニコニコ笑いながら言う。
「見つかってよかったねぇ。でも、そういう高価なものは持ってっちゃう人もいるから、忘れないようにね。いい人に見つけてもらったんだし、その人に感謝しなきゃね。おばちゃんは預かっただけだから」
そう話す店のおばさんの笑顔に、立夏はしっぽを振りながら頷き、お礼を言って店を出た。

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