キス泥棒
土曜日の午後、立夏は図書館へ向かっていた。

「どこ行くの?」
交差点が赤信号で信号待ちをしているところに、急に背後から声をかけられて、立夏はびくっと大袈裟に驚く。
声で誰かはわかったが、振り返って長躯を見上げる。
「ごめん、びっくりした?」
「急に話し掛けるから…。っていうか、なんでいるの」
「それはもちろん、立夏に会いに。どこに行くの?」
にっこりと笑って言う草灯に、立夏は「図書館」と短く行き先を答える。
「一緒に行ってもいい?」
「べつにいいけど」
断る理由もないので、一緒に図書館に向かった。

「…なんだよ?」
本を読んでると視線を感じて立夏が顔を上げる。
すると、草灯と目が合った。
「気にしないで」
「って言われても…」

じっと見られていると、どこかおかしなところがあるのか気になるし、それになんだか落ち着かない。

「ただ、立夏を見てたいだけだよ」
きれいに笑って言う草灯に立夏はほんのりと頬を染め、視線を本に戻す。
「…ヘンなヤツ」
「ヘンじゃないよ」
「そうゆうところがヘン」
立夏は本を閉じて立ち上がると、別な本を探す。

「………」
本棚を見ながら立夏は横目でちらちらと、草灯を見る。
なぜかついて来て、本の背表紙を眺めたりしている。
本当に何をしに来たのか、わからない。

立夏はいくつか本を手に取ってはパラパラとページをめくり、本棚に戻し、気になる本を探す。
それを何度か繰り返し、ようやく面白そうだと思えそうな本を見つけ、少しだけ立ったまま読んでいると、真後ろに気配を感じる。
それでも立夏は気にせずに本に目を通していると、背後から腕を回される。

「よせよ」
小声で咎めるが、草灯は離れる様子がなく、立夏は視線だけ動かしてあたりを伺う。
「草灯」
図書館なので大きな声は出せない。
それをいいことに、草灯は耳元で囁いてくる。
「キスしたいな」
「ダメ」
即答で却下するが、草灯は肩を掴んで強引に小柄な立夏の体の向きを変え、顎を持ち上げてその唇を奪った。
立夏の手から落ちた本がバサッと床に落ちる。

「バカッ!」
唇を離すと立夏は顔を赤くして文句を言い、キョロキョロと周りを見回す。
幸い誰も見ていなかったようだ。
「誰も来ないでしょ。こんな宗教や心理学のコーナーなんて」
そんなことを言いながら、草灯は立夏が落とした本を拾い上げる。

たしかに、土曜日ということもあって図書館は普段より人が多いが、今2人がいる宗教関係や心理・哲学系のコーナーには、普段からあまり人はいない。
しかし、人が見てるとか見てないとか、そういう問題じゃないだろう。
人に見られなかったからいいということではなく、人に見られそうな場所だということが問題なのだ。

「そういう問題じゃねぇだろ!」
ひそひそと声をひそめて抗議する立夏に、草灯は人差し指を唇に立て、静かにするように言う。
静かにという合図に、誰のせいだと立夏は思い、立夏は草灯を睨む。
だけど、睨んだところであまり効果はないようだ。

図書館という大きな声で話すことが出来ない場では、怒ることも出来ないのを知っての上でやったに違いない。
まったく、このキス魔は油断も隙もない。

〜END〜

LOVELESS祭のリクエスト・リレーの投稿見本でした
ちょこっとだけ直してますが、ほぼそのままです
書いたのは告知開始よりもずっと前だったのですが(見本ページも作らないといけないので…)
見本書かなきゃなーと思いつつも、どんな話を書いていいのかかなり迷った記憶がありますね
さらに「リクエストリレー」なのでリクエストもまた迷ってお題配布サイトさんを見たりウロウロしました(笑)
いや…描きたいって思ってくれるようなキーワード(リク)って何だろう?と思うと難しかった
なんだか身のない話だな…orz
投稿:2006.9.30
再録:2007.1.7

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