page:2
夜のカフェにはカップルや友達同士と思われるグループ、何か本やノートを広げて勉強している人や、会社帰りなのかスーツ姿の中年の人など色んな人がいる。
だいたい、草灯と似たような年の人が多いようだが、さすがに夜も10時を回って子供は自分だけだ。
何か楽しそうに話して笑っている女子高生の集団がいるテーブルの一角だけが賑やかだ。
彼女たちをうるさそうな顔で視線を向ける人はいるが、皆自分たち以外は我関せず、といった様子で文句を言ったり注意する人はいないし、この時間に小学生といる大人を不審がる人もいない。
他人に干渉されても困るのだが。

「立夏、少し言葉遊びしようか?」
不意に草灯がそんなことを言って、立夏の隣に移動してきて座る。
「言葉って面白いものでね、特に日本語には“言霊”といって言葉に力があるとされてる。戦闘機が使うスペルはまさにそれだね。言葉が現象として具現化する。
他にも日本語というのは使い方が難しいと言われるけど、耳で聞けば同じ単語でも意味はまったく違う言葉がいくつかある。別な単語で言い方を変えると意味が変わってしまうこともあるからなんだけど…」
テーブルに備えつけられたアンケート用のペンと、紙ナプキンを一枚取り草灯は紙ナプキンにペンで「愛無」と書く。
それを見て立夏はイヤだなと思う。
「たとえば立夏の名前。
ここに少しつけ加えることでまったく意味が変わるよ」
見てて、と言って草灯は「愛無」に書き足して、紙ナプキンをテーブルに滑らせて立夏に見せる。

そこに書かれている文字は「愛撫」。
小学6年の立夏は見たことがない、見慣れない単語だ。

「意味、わかる?」
草灯に聞かれて立夏は黙って首を振ると、草灯は立夏の頬を撫でる。
「“あいぶ”って読む。こういうことを指す言葉だよ」
詳しくは辞典で調べてみるといいと言って草灯は笑った。

「言葉には力がある。戦闘じゃなくても、普通に話しててもね。
言い方ひとつでその人の印象が変わることもあるし」
帰り道、並んで歩きながら草灯が言い、立夏は隣の長身を見上げた。
戦闘機は言葉を操り、その言葉は現象として具現化する。
草灯の言うことは大人ということもあって、立夏は素直に納得が出来た。

立夏は家に帰って眠る前に辞典で「愛撫」の意味を調べてみた。
『あいぶ──かわいがり、なでさすること』
それで頬を撫でたらしい。

確かにつけ加えることで意味はまったく変わったが、ラブレスという名前は変わらない。
慰めなのだろうか?
だけど、言葉の意味を身を持って知って、草灯が自分に触れる時はいつもそうなのかな?と思うと少し頬が熱くなった。

もしかして──。
「好きだよ」なんて言われて、暗示にかかっているんじゃないだろうか?
ふと、そんなことを考えながら立夏はベッドに横になり、明かりを消した。

〜END〜

どこらへんが「お稽古」なんだかサッパリなんですけど
まあ、ちょっと「言葉」の持つ力みたいなものはわたし自身感じることはあります
言い方ひとつで印象が違うってこと、ありますよね
言葉の使い方というのはこうして文字書きとしても、すごく大事にしたいことだし、間違えずに使いたいなと思ってます
「知らないの?だから負けるんだよ」という草灯が瑶二に言ったセリフに、字書きとして言葉の意味を知らない自分は「そうですね…」と思ってしまいました…とほほー
2004.11.28 UP

≪Back
≪草立menu
小説トップ
HOME
無料ホームページ掲示板