SNOW
訳もなく気分が沈み、何もやる気が起きない。
こんな時に考えることといったら『なんのために生きているんだろう?』だとか『生きていることの意味』──そんなことばかり考えて気が滅入って憂鬱になる。
考えないようにしていても考えずにはいられない。

この憂鬱な気持ちごと、消えてしまえばいいのに。

眠るでもなくベッドに横になったまま立夏は溜め息をつく。

静かに窓を開ける音がして閉じていたカーテンが揺れる。
「立夏?寝てるの?」
「…寝てない」
俯せになっていた立夏は来訪者の方へ顔だけを向けて答えた。
近づいて床に座る草灯に立夏はダルそうに起き上がる。
「具合いでも悪い?」
「何でもない。…雨、降ってるのか?」
草灯のコートが濡れていることに気付いて聞いたのは、話題を変えたかったからだ。
「雪降ってるよ。少し積もってる」
「えっ、本当に?」
立夏はベッドから降りてパジャマのまま窓を開け、ベランダに出る。
ベランダに少し積もった雪に裸足では冷たくて、一歩下がって部屋に入る。
白い息を吐き出しながら、街灯の明かりの下に映る雪を立夏は眺める。
「風邪ひくよ」
背後から草灯は今まで着ていた自分のコートを立夏の肩に掛けてやる。
「きれいだな…」
しんしんと音もなく降り積もる雪を立夏は眺める。
「明日には解けちゃうかな」
東京では雪が積もっても翌日にはあっという間に溶けてしまうことが多い。
立夏はそれを少し残念に思う。
「写真撮っておく?」
草灯が聞くと立夏は首を横に振り、ただじっと静かに降る雪を眺めている。
その表情はどこか切なそうだ。

一面まっしろになった見慣れた景色に、立夏は自分のもやもやとした気分も、こんな風にまっしろに塗り替えられたらいいのにと思う。
心の中もこんな風にまっしろになったら、考えなくても済む気がするから。
ゲームのリセットボタンを押すようには、気持ちの切り替えは出来ない。
ならせめて、塗り潰せたらいいのに…。

「…なに?」
後ろから抱きしめられて立夏は草灯を見上げる。
「なんだか悲しそうな目をしてるから」
「……明日には解けちゃうかなって思っただけだよ」
立夏は少し笑ってごまかした。

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