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「すげぇ人…」
花火大会の会場は人で溢れていて、一体どこからこんなに人が集まるんだろうと思う。
思わず立夏が思わず呟くと手を握られ、隣の長身を見上げる。
「はぐれるといけないから」
確かにこの人混みでは、はぐれると厄介だと思い、草灯の手をきゅっと握り返す。
「なにか食べる?」
わたあめややきそば、やきとり等の屋台が並ぶ場所を指差す。
「オレ、あれがいい!」
立夏はつないでいる草灯の手を引っ張るようにして、クレープの屋台へ向かう。
草灯はたこ焼きを買ったが、立夏と食べようと思ったのに、「タコ嫌い」と言われる。
「立夏は好き嫌い多過ぎ」
「タコ抜きなら食べる」
「なんで嫌いなの」
クレープをたいらげた立夏にたこ焼きのパックを渡すと、タコを取り出そうとしている様子を見ながら聞く。
「イカとかタコっていつ飲み込んでいいかわかんないし、ずーっと噛んでて顎が疲れる。ゴム噛んでるみたいじゃん」
立夏の言い様に草灯はつい笑ってしまう。
「食べて」
取り出したタコを刺した竹串を草灯に差し出すと、草灯はそのまま食べた。
「おまえ、自分で持てよ」
「細かいこと気にしない」
もー、と言いながら立夏はタコを抜いたたこ焼きを食べ、今度は紅しょうがが嫌だと言い出す。
「しょうがは体にいいんだよ」
「だって舌が痺れる感じするんだもん」
「そうかなぁ」
そんなことを話していると、目の前をわたあめを抱えて父親と母親と一緒に歩く小さな女の子が通りかかる。
(あ……)
女の子が抱えているわたあめを立夏はじっと眺め、思い出す。
以前、清明と縁日に行った時に食べたきりだ。
だけど小さな子が持っているのを見て、なんとなくそれを自分が買うのは恥ずかしい気もする。
花火が見えるように雛壇が作ってあるのだが、すでに人が沢山で座る場所はないようだ。
レジャーシートやダンボールを敷いたり、草原に直に座っている人たちも沢山いる。
草灯はその場に座ると膝を叩く。
「ここ、座る?」
「っ…い、いいよ!(ヤダ)」
ミミを伏せる立夏は首を振って拒否する。
「浴衣汚れちゃうよ?」
立夏が困っていると近くにいた人がダンボールを持って近寄って来た。
「彼女困ってるみたいだから、これどうぞ」
そう言って草灯よりも年上の男の人はダンボールを渡し、草灯が礼を言うと戻って行った。
「よかったね。親切な人がいて」
ダンボールを広げて敷くが、立夏はそこに座ろうとしない。
「カノジョ…?」
「…気にしてるの?」
(く、屈辱っ……)
友達の弥生さんにも「女の子みたい」と言われたこともある。
女の子と間違われるなんて屈辱だ。
「まあ、せっかくだから座って。暗いからよくわからなかったんじゃない?(かわいいから間違われるのもしょうがないんじゃないかな)」
しっぽを膨らませている立夏には、かわいいから間違えたんだ、なんて言えば怒られるに違いない。もちろん、思うだけで口には出さないでおく。
立夏は小柄で顔の造作もかわいくて、女の子と間違われるのは仕方ないかも知れないが、性格は男らしくて女々しいところなんてない。
小さなご主人さまは脆くて折れそうなのに、強い。
「立夏はかっこいいよ」
「…おまえが一番、かわいいかわいい言ってるけどな」
むすっとして座る立夏に「だって本当にかわいいし」と思うが、これも言わないでおくことにする。

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