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「沢山優しくしてもらった。オレの優しさは清明にもらったものだよ。清明がしてくれたこと、もらった優しさは、オレはオレが好きな人たちにあげたい。
草灯にも」
ぎゅっと立夏は草灯の手を握る。
「いいお兄ちゃんだったんだね」

立夏の知る清明は草灯の知らない清明だ。
そのことを羨ましいとか悔しいとか思いはしない。
草灯の知る清明もいて、草灯の知っている清明を立夏は知らない。
立夏の清明も真実で、草灯の知っている清明も、清明自身だった。
違う人のようにも思うが、どちらも本当で真実だ。

「清明に返すことはもう出来ないけど、今オレが好きな人たちにはあげられる」


清明にはもう返すことが出来ない。
大好きもありがとうも、直接伝えることは出来なくて。
それを悲しく思う。
清明を失った世界は退屈でつまらなくて、居場所も生きてる意味もないと立夏は思っていた。
だけど今は友達がいてくだらないことで笑ったり、助けられたりなにかしてあげたり…。
自分にもそんな普通のことが出来て楽しみや嬉しさを感じる。
生きていれば年を重ねて成長して、人は変わっていく。
色んな経験をして色んな話をまわりの人として、自分も変わっていく。
それは草灯も同じだと立夏は思う。
生きていれば誰だって家族や友達や恋人や、大切な人たちと別れる時がある。それはどうしても避けがたい当然のことだ。
どんなに悲しくてどれだけ寂しくても……。

清明がいなくなっても時間は過ぎていく。
清明を忘れたりはしない。絶対に。
季節が流れても。
自分が変わっても。
決して──。


「ねぇ、立夏。オレは清明に感謝してるよ。
清明はオレに立夏を与えてくれた。立夏に会えたことも好きなことも、今のオレにとっては嬉しいことなんだ」
草灯の言葉に立夏はじっと見上げて耳を傾ける。

戦闘機とサクリファイスは二人でひとつ。
同じ名を持つ二人は、生まれる前から決まっている。
ゆえに強く深い絆を持ち、離れては生きてゆけない。
清明が死んだ時、草灯も生きる意味がないと思った。
自分の半身ともいうべき存在を失った深い喪失感は今でも思い出すと胸が痛む。決して忘れられない。
サクリファイスを失った草灯に死ぬべきだとか、恥だと言う者の言葉もわかる。
守るべきサクリファイスを失うことは、守りきれなかったということだから。
マスターを守りきれずに失い、生きることは戦闘機として恥ずべきこと。
マスターを失って生きる意味など戦闘機にはないのだ。
それでも草灯は清明の後を追うことはなかった。


立夏に会って立夏のものになる。
そして立夏を好きになる。
清明からそう命じられていたから。
マスターが死んでも命令は絶対だ。決して変わらない。

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