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「っ…い、痛……」
首筋のひっかき傷に触れたものに、立夏は眉を寄せる。
濡れた、暖かい、柔らかな感触に、傷を舐められたのだと気づく。
「せ、清明…?」
「痛い?」
「う、うん…でも、平気。大丈夫…」
なんだかドキドキして立夏は少し身を離す。
今度はツゥ…っと傷をなぞられ、立夏は表情を歪める。
「ほら、痛いんでしょう?立夏は我慢強いから、痛いって言わない。余計に心配になるよ」
そう言いながらも清明は、内心、立夏が痛みに顔を歪ませる表情に満足する。

苦しみ、痛み、泣き顔。
どんな表情もかわいくて愛しい。
自分だけには全て見せて欲しいと清明は思う。

「痛い…けど…我慢出来ないほどじゃないし…」
寝かせたミミをピクピクとさせ、立夏は頬を赤くする。
清明は笑みを浮かべて立夏の頬を濡れた手で撫でる。
「立夏は我慢強い、いい子だね」
「っていうか…傷は、そのうち治るし」
褒めると照れた様子を見せる立夏に清明はくすっと笑う。
「そうだね。でも、ココの痛みは治りにくい」
言いながら清明は肉付きが薄い立夏の胸に手を当てる。
「立夏が本当に痛いのは、ココでしょう?」
心の方がずっと痛いのだろうと言われて、立夏は嬉しいような暖かいような気持ちが胸に広がった。
不思議とさっきまで軋んでいた心がふっと緩んでいく。
だけどなんだか大きな手に触れられることを、気恥ずかしく感じる。
「………。だ、大丈夫だよ。清明がいるし…平気」
ドキドキしているのが伝わってしまうと思い、立夏は兄の大きな手を掴んで胸から離すときゅっと握った。


優しい兄がいれば大丈夫。
耐えられる。
清明がいるから、どんなに殴られても罵られても平気なのだ。

清明だけは理解してくれるから。


「じゃあ、いい子の立夏におまじないしてあげる」
「おまじない?」
きょとん、とする弟に清明は柔らかく微笑みかけ、立夏を湯船の中で膝立ちにさせると、胸に口付ける。
「せ、せいめ…っ…」
立夏は驚いて兄の名を呼ぶが、ちりっとした痛みを残し、唇が離れた。

兄の唇が触れたそこには、皮膚が赤くなっていて、立夏はわけがわからないまま、無意識にそこに触れる。

「いつも、一緒にいるからね。おまもり」
「おまもり…」
「辛いとか苦しいとか痛い時は思い出して」
柔和な笑みでそう話す兄に、立夏はこくん、と小さく頷いた。
「立夏は笑ってる方がいいな。その方がかわいいし好きだな」
泣き顔も痛みをこらえる表情もいいが、やっぱり笑顔の方がいいと清明は思って言う。
出来ることならこの笑顔は自分だけに向けられるものになれば…。
「う、うん…ありがと」
照れながら立夏はお湯の中でしっぽを振る。
「オレも、清明が笑ってる顔、好き」
「立夏が笑ってくれるなら」
かわいい弟のはにかんだ笑顔に、清明も優しく微笑み柔らかい立夏の頬を指の背で撫でる。
「立夏がいる理由は、僕に愛されるためだよ」
「うん…」
胸が熱くなる感じがして立夏は清明に抱きつくと、しっかりと抱きとめてくれた。

自分が生きている意味を、愛されるためだと言ってくれたことが、立夏は嬉しくて少し泣きそうになった。

ここにいてもいい。
そう思えるのは、優しい兄がいるから…。
生きる理由が大好きな兄に愛されるためなら、自分の存在理由に価値があるように思えた。

〜END〜

微エロを狙ったんですが、微エロにもなってなかった…orz
ドSな清明様は立夏が痛がる顔も好きに違いない…!
本当は泣き顔見たいと思ってるはず
7巻コラブレスがアレだったので、お風呂ですvv
お風呂で抱っこが書きたかったー
清明様のスペルは最強だ!と思うのですが、わたしが書くとヘボくなってしまい、申し訳ない…(がくり)
第2回LOVELESS祭への投稿作です
「笑顔」「抱きしめる」というお題を使って書いたものです
少しだけ加筆修正してます
原型はLOVELESS祭にあります
投稿:2006.12.1
再録:2006.12.15

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