disorders
遅くなってから帰宅した清明は、どうしたのかと思う。
いつもなら帰宅したら猫のように擦り寄って来る立夏が、ドアの陰から顔を出しているからだ。
そのドアは清明の部屋ではなく立夏の部屋。
兄弟の部屋は別々にあって、自分の部屋にいることは珍しくはないことだが、普段の立夏は自分の部屋に居るよりも、清明の部屋に居る時間の方が圧倒的に多い。
自分の部屋にいるのはおかしなことではないけれど、ドアの影から様子を伺うようなことをしている理由がわからない。
「おかえり、清明」
「ただいま。ゴハンは食べた?」
「食べたよ」
ドアの陰に隠れるようにしている以外、特に変わった様子はなく、いつも通りに会話をしながら清明は様子を見る。
「じゃあお風呂入ろうか」
「だめ」
珍しく拒否されて清明は僅かに目を瞠る。
「ダメなの?」
立夏はドアの陰に立ったまま、ミミを横にして話す。
「あのな、オレのクラス、学級閉鎖なんだ。『はしか』が流行ってて…。もしかしたらオレもうつっちゃってるかも知れないし、清明にもうつしちゃうかも」

立夏が通う小学校では今、インフルエンザや風邪が流行して学級閉鎖になったクラスもあるが、インフルエンザの他に『はしか』が流行し始めた。
一般的に『はしか』と呼ばれる伝染性の病は正式には麻疹という。
麻疹は感染力が強く空気感染するが、他にも飛沫感染する感染症にはインフルエンザや、おたふくかぜ、風疹、みずぼうそう、結核等があり、そういった感染症は学校等の集団生活の場では放置すると感染広がってしまう可能性が高い。
そのため、法令で決められた学校保健法で、感染し発症した生徒の出席停止や、臨時に学級閉鎖にして感染拡大を予防することもある。
麻疹は感染してもすぐに症状が発症することはなく、潜伏期間が約10日程ある場合もある。
立夏のクラスでも麻疹にかかった子が数人いる為、感染していると学校が判断し、学級閉鎖になった。
今日は金曜なので土日を含んで5日間、外出を控えるように言われ、月曜から3日間、立夏のクラスは休みになったのだ。

立夏は自分も感染したかも知れないと思い、兄にうつしてはいけないと危惧して、ドアの陰に隠れるようにして接触を控えているのだろう。
清明はくすっと笑って立夏の頭をくしゃりと撫でる。
「大丈夫だよ。僕にはうつらない」
「えっ、そうなのか?なんで?」
ぱちぱちと大きな瞳を瞬きさせる立夏に清明は話す。
「小さい頃にかかったことがあるし、立夏も僕と同じ頃にかかった。風疹やはしかは一度かかったことがある人はかかりにくいっていうし、たぶん平気だよ」

はしかは感染力が強い病気ではあるが、一度感染したことがある人間は抗体が体内に出来て、症状が出難くなる。
そのため、体内に抗体を作らせて免疫をつけさせ、発症を防ぐ役割りを果たすのがワクチン接種だ。
だが、ワクチンを1度接種しただけでは効果が弱いこともあるため、発症してしまう患者が増えてしまうことがある。
その反面、1度でも発症したことがある患者は免疫が十分に出来ているので、感染したとしても発症はしにくくなるのだ。

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