好き好き大好き
その声も。
その手も、腕も。
ぬくもりも。

すべてが好きだと思える。
だけど、好きなところを並べ、数えあげてもあるのは切なさだけ。

「なんで、気持ちを伝えるのに『好き』しかないのかな」
唐突に言い出す立夏に草灯はどうしたのかと思う。
目の前でなにか深刻そうな顔をして、何を悩んでいるのかと思えば恋心のことらしい。
目の前で自分のことで真剣に悩んで、そんなことを言う仔猫がかわいくてたまらない。
「そうだね…どんなに好きでも、言い表せなくてもどかしくなるよ」

気持ちを伝えるには『好き』『愛してる』の2種類しかない。
立夏にはまだ愛というものはよくわからなくて、草灯を好きだと思うけれど「愛しているか?」と聞かれたら、正直わからない。
「愛してる」ともしも言われても、少し重く感じる気がする。
どんなにすごくすごく好きでも、その気持ちを相手に伝えるには『好き』という言葉でしか伝えられないことが、草灯の言うようにもどかしく思う。
何百回、何千回、何万回『好き』と伝えたら、この胸の中の気持ちがすべて相手に伝わるのだろう?

「何万回も好きって言ったら全部伝わるのかな…」
恋愛経験が少ない幼い恋人の呟きに、草灯はテーブルに頬杖をついてじっと眺める。
「胸を切り開いて見せて伝わるのなら、そうしたいとオレも思うことがあるよ」
草灯が言うと立夏はミミをぴくりと動かし、顔を上げる。
「そんなこと、されても嬉しくない」
「でもね、そのくらい立夏のことを思うと切なくて、そう思うんだよ。立夏に命も魂も全部捧げても足りないくらい。だけど…立夏のために死ぬより一緒に生きる方がいい」
「…当たり前だよ」
立夏が少しむっとしたように答えると、草灯はくすっと笑う。

はぁー…と溜め息をつく幼い恋人を眺めているだけでも、会話がなくても草灯は飽きることがない。
自分への気持ちをどうやったら伝えられるのか悩んでるなんて、本人を目の前に惚気ているようなものだ。

「立夏、もうひとつあるよ。『好き』と『愛してる』の間に」
そう言う草灯を立夏は「なに?」と問い掛けるように見つめる。
「『大好き』だよ」
柔らかい笑みを浮かべて話す草灯に、立夏は大きな瞳を何度か瞬きさせる。
そして見る見るうちに表情が明るくなっていく。
「そっか…。『大好き』…」
いい言葉だと思えて、立夏は胸が暖かくなる感じがした。
しっぽを振る立夏に草灯はくすっと笑って言う。
「ありがとう」
「えっ…?」
急に礼を言われて立夏はきょとんとして草灯を見る。
「オレのこと、そんなに悩むくらい好きになってくれて嬉しい」
「あ…う、うん…いや……」
かぁーっと頬を赤くして照れて俯く立夏は、言われて気づいたようにも見えて、草灯はくすくす笑いながら立夏を抱き寄せる。
「『大好き』だよ。立夏」
ちゅっと額にキスされて立夏もきゅっと抱きついた。
この腕の中のぬくもりが居心地よく感じる。

『好き』よりももっと『好き』で、『大好き』だと思う。
そう思える相手がいること。
その相手が草灯だということが嬉しいと立夏は思った。

〜END〜

恋愛って片思いの時が1番幸せってこともあると思うけど、両思いでも立夏は片思いをしそうかな?なんて…
立夏って恋愛に関しては未熟で、疎かったり鈍かったり、無知なとこがあると思う
本人の目の前で惚気て言われるまで気づかないとか、鈍すぎですよね(笑)
でもそんなところがあるとかわいいな、なんて☆
2006.11.15 UP

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