おはよう
目を覚ますと目の前に黒い物体があり、草灯は何だろうと思った。
だが、その正体はすぐに判明して自然とふっと笑みが浮かぶ。

子供特有の獣のミミ。
昨夜は立夏が初めて、泊まってくれたのだった。

眠る前は一緒に寝ることにも抵抗を示したが、今は草灯の腕を枕にしてくぅくぅとよく眠っている。
しばらく間近にある立夏の寝顔を眺めていたが、やはり見ていると触りたくなって、柔らかい頬やさらさらとした黒髪を撫でる。

寝顔を見ているだけでも飽きない。
目を覚まして欲しいけれど起こしたくないな、とも思う。
愛しい、という感情はこういう気持ちをいうのだろうと草灯は思う。
立夏だから、なのだ。

ぴくぴく、とミミが動いて立夏は目を覚ました。
「おはよう、立夏」
「ん…おはよう」
ごしごしと目を擦り、立夏は挨拶を返してくる。
そして――。

ちゅっと軽く柔らかい唇が一瞬、触れてくる。

「………」
草灯は驚いて目を瞠った。

寝ぼけているのだろうか?
立夏の方からキスしてくるなんて…。

「あ、ゴメン。腕、痛くなかったか?」
立夏は草灯の腕を気にして言う。
「大丈夫。それより珍しいね。立夏の方からキスしてくれるなんて」
「え?だって、朝の挨拶は普通のことだろ」
「そうだけど…」
「親しい人とはするもんだろ?」
立夏はきょとんとして当たり前だといったように言う。
「まぁ…欧米スタイルっていうか…でも」
「欧米?」
立夏はぱちぱちと大きな瞳を瞬きさせる。

欧米あたりでは、家族や親しい人と挨拶でキスするのを映画なんかでも見ることがある。
だけど、それは頬に、であってマウス・トゥ・マウスは滅多にはないだろう。
立夏は誰に教わったのか、口にキスするのを挨拶だと思い込んでいるらしい。
(まぁ、いいか。普通のことだと思ってるなら)
立夏が普通のことだと思っているのなら、滅多にキスなんてしてくれないのだから、都合がいい。
一緒に寝ることすらイヤそうな顔をした立夏のことだ。
きっと普通じゃないと知ったら、二度としてくれなくなるに違いない。

草灯は起き上がってにっこりと笑う。
「気にしないで。それより、朝ゴハン作らなくちゃね」
朝食を作りながら草灯はちょっと信じられない気分になる。

しかし、この立夏の朝の挨拶のキスは青柳家の習慣なのだろうか?
あの母親が教えたり、家族間でこんな習慣があるようには草灯には思えない。
だとすると…。
思い当たる人物は一人しかいない。

立夏を可愛がっていた、兄の清明しかいないのではないか?

草灯の知る清明からはおおよそ考えられないことだ。
だけど、相手が立夏なら…。


もしかしたら、こんな風に間違った(とも言い切れないが)習慣が立夏は他にもあるのかも知れない。

〜END〜

初夜ではありませんよ(笑)
清明様の教育って絶対に立夏騙されてると思います
普通じゃないことを普通だと思い込まされてる!
洗脳されてるよ…
そうだといいな(笑)
そのおこぼれをちゃっかり頂く我妻さんなのでした☆(今日のわんこ風)
再録:2007.1.16

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