欠乏症
このところ、ずっと草灯が来ない。
迎えにも来ないし夜に部屋に来ることもない。
電話もなければメールもない。
一体どうしたというのか。
たまにこんな風に放っておかれることはあるが、それでも2〜3日程度だ。
何かしら連絡はしてくる。
だけど今回はもう1週間になろうとしている。
思わず、何かあったのだろうか?なんて心配になってくる。

でも……。

携帯電話を立夏はじっと見つめる。
以前にもこうしていて「見てたってかからないよ。声が聞きたいなら電話すればいいのに」と言われたことがあった。
(べつにそういうんじゃないし)
誰に冷やかされたわけでもないのに、立夏は否定する。

会いたいわけじゃない。
声が聞きたいわけじゃない。
そう、ただずっと側にあった物が突然なくなったら、視界が落ち着かないだけのこと。
寂しいわけじゃない。

もしかしたら……。

草灯のことを考えてしまうのは、顔を見ていないから。声を聞いていないから。
だけど、それは心配なだけだ。
病気や怪我をしているんじゃないかと心配だから。
気になるなら連絡をすればいいのだけれど。

立夏はふーっと息をついて軽く頭を振る。
「寝よ……」
布団をめくって潜り込もうとしたところで、そういえばと思い出した。
ベランダの鍵を開けっ放しだ。
「………」
鍵を掛けるべきか、開けておくべきか立夏は一瞬迷う。
ちょうどその時、カラカラ…と窓が開いてひやりとした真冬の夜の冷気が入り込んできた。
ドキンとしたのは冷気のせいなのか、それとも──。

ベッドの上で布団に入ろうとしている立夏を見て、来訪者は言う。
「もう寝るところだった?寝るならちゃんと鍵掛けないと不用心だよ」
窓から入って来た男は「久しぶり」でもなく「こんばんは」でもなくそんなことを言い、立夏はどう答えるか迷ってしまい言葉が咄嗟には出ないまま、近寄って来る男を目で追う。
「っ……」
ぎゅっと抱きしめられて、立夏の心臓が大袈裟に跳ね上がった。
「立夏不足」
「はぁ?なんだよ、それ…」
やたらと早い自分の胸の鼓動と、抱きしめてくる相手に戸惑いながら、立夏は何を言っているのかと思う。
「忙しくて全然会えなかったから、立夏が欠乏してるんだ」
「…バカ」
ミミを寝かせて立夏は草灯の背に腕を回した。

ヘンなやつだと思う。
けれど、ドキドキしている胸がまるで炭酸水の生まれては消える気泡のように、スーッとして落ち着いていく感じがする。

「なんで…来なかったんだ?また勝手に戦ったり」
「違うよ。学校の試験で。レポートもあったから。
ごめんね、心配した?」
「…ん。ちょっと、な」
顔を上げると間近で目が合う。
眼鏡の奥の自分を見つめる眼差しに、自分の姿が映っている。
頬を包むように触れて来る大きな手。
近づいて来る顔に立夏は自然と目を閉じた。

ゆっくりと唇が重なる。
「…ん、ふ……」
何度も唇を啄ばまれ、深くなる口付けに立夏もそれに応える。
首筋や耳元、こめかみにキスしながら草灯は仔猫の甘い香りを吸い込む。
唇が這うくすぐったさに立夏は身を捩らせる。
「ちょっ…くすぐったい」
肩や胸を押して離れようとする立夏に草灯は言う。
「もうちょっと。充電させて」
「…充電って…」
電池でもあるまいし、なんだそれ?と思うが、なんとなく立夏もわかるような気がした。

顔を見て、声を聞いて実感した。
会いたかったのだということ。
そして、やっぱり好きなんだということを。
思い知らされたと思うと何だか悔しい気がする。
でも、会えなかったことすら、どうでもよくなる気がしてくる。
満たされていくのを感じることが出来る。
充電と言うのは、たぶんこういう気持ちなのかな?と立夏は思った。
そしてそれは草灯も、きっとそう感じてくれているのだろう

〜END〜

ここんとこ、なかなか思うように更新が進んでなくてゴメンナサイ
そういう意味も含めて、せめてちょっとラブラブなのを…☆
好きな人に会えなかったっていう意味で、「LOVELESS」かな?
充電して幸せ満タンにするといい(笑)
お礼:07.1.16
再録:07.2.8

SSメニュー
小説メニュー
HOME
無料ホームページ掲示板