代用
ホワイトデーのプレゼントに草灯がくれたクマのぬいぐるみ。
立夏は素朴な疑問を草灯に問い掛けた。

「なんでぬいぐるみ?」
「かわいいでしょ」
小学生の部屋で断りもなく喫煙する大人はシンプルな答えを返した。
しかしそれは立夏が求めていることの答えではない。

立夏が言いたいのは、何故、男の自分にぬいぐるみなのか、ということ。
立夏はぬいぐるみを好んで置くタイプではない。
それは部屋を見れば一目瞭然で、立夏の部屋にはぬいぐるみの類はひとつも見当たらない。
部屋自体がシンプルで、小学生の部屋とは思えないくらいだ。
どうしてそれを選んだのか理由があるのかと思ったのだ。

「だから、なんで。女の子なら喜ぶかも知れないけど…」
立夏はクマのぬいぐるみをバンザイさせてみたりしながら言う。
「嬉しくなかった?」
「え?いや、そうじゃなくて。嬉しくないってわけじゃないけど」
貰ったものにケチをつけているようになってしまったかと思い、立夏はゴメンと謝る。
「奈津生も瑶ニもぬいぐるみ持ってるし、立夏も持ってたらかわいいかなーと思って」
「…ふぅん?」

別に男だからぬいぐるみを持っているのはおかしい、とは立夏も思わない。
ただこれまで、ぬいぐるみに興味がなくて自ら欲することがなかっただけのことだ。
しかし、かわいいからという理由はちょっとどうかと思う。

ぬいぐるみを膝に置いている立夏は、思ったとおりかわいいと草灯は思う。
「寂しい時は抱いて寝てね。オレだと思って」
軽く頭を撫でて言うと手を払われる。
「しねぇよ」
「エー、なんで?」
「なんでって…」
立夏は不満なのかしっぽの先で床を叩いている。

ベッドの枕元に置くくらいはいいけれど。
抱いて寝るくらいはしたっていい。
拒否の理由は「オレだと思って」という言葉だ。
草灯だと思って抱いて寝るなんて、恥かしいことしたくないと立夏は思う。
それをすることによって、草灯と一緒に寝たいとか一緒にいないことが寂しいと思われるんじゃないかと思う。それがいやだ。

「オレが立夏と居られなくて寂しい時があるし、立夏と毎晩一緒に眠りたいから、代わりにね」
そう言って草灯は立夏からぬいぐるみを取り上げると、ぬいぐるみにキスして立夏の膝にポンと座らせる。
「っつーか、おまえはクマか」
ぬいぐるみはクマなので、呆れ顔で立夏が言うと草灯はくすくす笑う。
「かわいがってやって」
「………」
ぴく、とミミを反応させ、立夏はぬいぐるみのにちゅっとキスする。
「あ。ずるい。オレには?してくれないの?」
「身代わり、なんだろ?」
「本人ここにいますが」
自分を指差して言う草灯に立夏は笑いながら、ベッドに上がってぬいぐるみを抱っこしたまま寝転がる。

細い腰にゆるく巻きつくように乗ったしっぽといい、表情といい、その姿は想像以上に愛らしくて、草灯は何とも言えない気分になる。

「やっぱりダメ」
草灯がぬいぐるみを立夏から取り上げると、立夏はむっとした顔をする。
「なんだよ?」
「やっぱり身代わりダメ」
「はぁ?おまえが言ったんじゃん」
「ぬいぐるみでもダメ。立夏と一緒に寝るのもキスするのも」
草灯はぬいぐるみごときに嫉妬しているらしい。
呆れかけて立夏はくすくすと笑う。
「ばーか。身代わりになんかならねぇよ」

ぬいぐるみが草灯の代わりになるわけがない。
ぬいぐるみはぬいぐるみ。
草灯は草灯。
草灯の代わりをぬいぐるみが出来るわけがないから。

〜END〜

ゼロちゃんたちもぬいぐるみ持ってるし!立夏だって持っててもいいじゃないか!かわいい!(落ち着け)
ぬいぐるみ抱っこして寝転がってたりしたら、キュン死するなーと思ってオマケ的に書いてみたです☆
草灯は心の中で「萌え」って絶叫して悶えてるはず(笑)
2007.3.14

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