理由

妙な息苦しさを感じる。
胸を圧迫されているような、そんな感覚。
草灯は眠りから意識を浮上させる。
夢かと思ったが目が覚めても、その感覚は消えない。
「………」

目をあけると目の前には黒いかたまり。
自分の呼吸に合わせてそれも上下する。

またか、と草灯は思った。

立夏と一緒に寝るとどういうわけか、目が覚めると立夏は胸の上に乗って寝ている。
そうそう一緒に眠る機会があるわけではないが。

草灯の呼吸に合わせて動く黒いものは、胸に乗っているのは立夏の頭だ。
草灯の胸を枕代わりに立夏は寝ている。
起こさないようにそっとベッドに寝かせると、ミミをピクピクと動かし立夏は目を覚ました。
「起こしちゃった?ごめんね」
のそのそと起き上がりベッドに座って立夏はミミを寝かせたまま目を擦る。そして、大きく伸びをする。
まるで猫のようだなと草灯は思う。

「なんで、いつもオレの上で寝てるの?」
「え?…さぁ…?」
立夏は少し頬を赤くして首をかしげる。
寝ている間の無意識のことでわからないらしい。
「ていうか、起こしたのオレ?だよな…。ごめん」
謝る立夏に草灯は笑って「いいよ」と答えた。

翌日、草灯は学校のアトリエで絵を描いていると、同じゼミの女の子が話している会話が耳に入ってくる。
普段はあまり気に止めないのだが、この時ばかりは違った。
「ウチの猫、起きるといつも胸の上で寝てるんだよね」
「実家で飼ってた猫もそうだったよ。冬とか寒い時はあったかいところに来るから」
「そうそう」

なるほど、と草灯は思った。
草灯の体温は高い。
寝ている人間はさらに体温が高くなる。
立夏が草灯にくっついて、胸の上で寝ている理由も同じなのかも知れない。
(まさに猫だな)
そう思うと、笑いがこみあげてきた。

「何いきなり笑ってんの。思い出し笑い?」
側にいたキオが突如、くくく…と笑い出す草灯を不審がる。
「うん、そんなところ」
「うわ…ヤラシイ。何、なんなのさ」
「ん?いや、仔猫がね…」
「猫?飼ってんの?」
「たまに遊びに来るんだけど。どういうわけか、寝て起きると胸の上で寝てるんだ」
草灯の話にキオは少し離れた場所で、飼い猫の話をしている女の子たちを横目で見る。
彼女らの話を聞いて、草灯が言っているのだとわかった。
そこで、キオはもうひとつ気付いた。
「ふぅん?黒いミミとしっぽの仔猫ちゃんね」
「わかっちゃった?」
キオの口ぶりに草灯が言うと、キオは肩をすくめる。
「そりゃもう。っていうか、一緒に寝てんのか」
寝泊りするとはずいぶんと親しくなったものだとキオは呆れ顔だ。

絵の具が乾くのを待つ間に一服する為にアトリエを出る草灯に、キオもついて行く。
その背中を見ながらキオは言う。
「手ぇ出して引っ掛かれたりしてんじゃないだろうな?」
「ないよ。そういう勘繰りする方がイヤラシイんじゃないの?」
「うっ…」
まともな意見を言われてキオは声を詰まらせた。
だが、それは一瞬のことだった。
「草ちゃんにとっては立夏ってネコなわけね」
「行動がね。猫っぽいかも」
「あ、うまくかわしやがったな。
でもやっぱ、思い出し笑いはちょっとやらしいよ?」

キオが言う「ネコ」が何を意味するか、草灯はわかってはいるが、草灯にはそういう意味で立夏を「仔猫」と言ったわけではない。
親友はどうやら、どうしても変態扱いをしたいらしい。

「今、まだ寒いからいいけどさ。夏になったら猫って暑いの苦手だよ?一緒に寝てくれないかもね」
キヒヒと笑うキオは冗談のつもりだったが、それは草灯にとってはゆゆしき問題だ。
火をつけた煙草をじっと見つめて黙り込む。
「ちょっと…なんでそこで黙るのさ?ねえ」
「体温って、下がらないものかな」
「それはムリだと思うよ。
っていうか、そんなに真剣に悩むなよ。ねぇ、聞いてるっ?」
キオに揺さぶられる草灯は返事もせず、しばらく悩んだ。
しかし平熱を低くする方法などあるわけもなかった。

〜END〜

友人宅の猫は寝てると(人んちで寝るな)必ず胸の上に乗ってきます
ちょっと重い…息苦しい
でも、なついてくれるのはかわいいよね
夏になったら立夏たんは草灯が暑いから一緒に寝るのはイヤがる…のかな?
冬はあったかいから、一緒にぬくぬく寝そうですねvv
多分、立夏はお兄ちゃんの胸の上でも寝ていたと思う!
でもお兄ちゃんは立夏より先に起きるから立夏は知らないんだ、きっと
立夏たんはにゃんこであり、ネコですね(笑)
キオちゃんがはぐらかされた「ネコ」は、お題小説の「かわいい」に理由(?)があります☆
てか、小噺にしちゃ長いな…こりゃ…
2006.6.8 再UP

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