隠しごと
11月に入ると夕方だというのに暗い。
清明は少し遅くなって帰宅すると、自室のドアを開く。
いつもならそこにいるはずの弟の姿はなく、部屋の中が暗い。
この部屋にいた形跡もないことから、まだ帰宅していないのだろうか?と清明は考えながら、制服を脱ぐ。
立夏の門限は6時。
今は6時少し前で門限前だけど、最近は暗くなるのが早いから、あまり遅くまで外にいないで帰るように言ってあるのだが…。

ネクタイを緩めてシャツのボタンを外したところで、ふと、物音が聞こえて清明は音が聞こえた方へ視線を向ける。
清明が視線を向けたのは部屋の壁。
視線は壁にあるが清明は意識は壁の向こう側、隣の部屋を気に掛ける。

清明は部屋を出て隣の部屋――弟の部屋のドアを軽くノックして声を掛ける。
「立夏?いるの?」
「うん。あ、おかえり、清明」
部屋の中から5つ年下の弟からの返事が聞こえ、声と一緒にガタガタと音が聞こえてくる。
清明がドアを開けようとすると、中から押し返される。
「開けちゃダメ!」
「どうして」
「どうしても!入っちゃダメ」
「………」
清明は複雑な思いでドアを見つめる。

立夏が自分の部屋にいること自体が珍しい。
別々に部屋を持ってはいるけれど立夏はいつも清明の部屋にいて、立夏は自室にいる時間よりも清明の部屋にいる時間の方がずっと長い。
よく懐いている弟は清明が帰宅すると、いつも猫のように擦り寄って「おかえり」と言ってくれる。
今日は珍しく自分の部屋にいて、おかえりもドア越し。
それにつけ加えて、部屋に入るなと拒絶している。
一体どうしたというのか。
清明は僅かに眉根を寄せる。

「わかったよ。部屋には入らない。だから顔だけでも見せて」
清明はそう言ってドアから離れて廊下に立つ。
部屋の中でガサガサ、ガタガタと音がして、その音が止まるとカチャ…と控えめにドアが開き、立夏が部屋から出て来る。
「おかえり。清明」
立夏はしっぽを振りながら兄に抱きつく。
別段、立夏に変わった様子は見られない。
それだけに清明は何故、立夏に拒まれたのかわからない。
弟の頭を清明は撫でながら言う。
「よかった。立夏に嫌われたのかと思ったよ」
「え?違うよ。そんなわけないじゃん」
立夏は腰に抱きつきながら見上げてくる。
「怪我したわけでもない?」
「うん、大丈夫だよ」
しっぽを振りながら答える立夏に、どうやら怪我は増えていないようで、清明も笑いかける。
「そう。じゃあ着替えて手を洗ってから、食事にしようか」
清明が言うと立夏は「うん」と答える。

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