愛の言霊
11月のある日、草灯は唐突に言った。

「立夏、クリスマスの予定ある?」
「べつに」
「べつに、じゃ予定があるのかないのか、わからないよ」
立夏に聞いてみたところ、立夏は素っ気無く答える。
立夏が一瞬にしてスッ…と心を閉ざすのを草灯は感じた。
「ない」
「じゃあ、立夏のクリスマスの予定はオレが予約していいかな」
「…いいけど?」
特に予定もないし、断る理由もないので立夏は承諾する。

正直、クリスマスはそんなに好きではない。
学校でもみんなの話題はクリスマス・プレゼントに何を貰うか、冬休みをどう過ごすかといった話が中心だ。
ユイコも弥生も例に漏れず、楽しそうに話していて、立夏にも予定を聞いてくる。
「わからない」と答えているが、立夏には楽しいクリスマスや冬休みの予定はなかった。
誰もがみんな浮かれて、楽しみにする日を好きになれない自分がイヤだった。
青柳家では家族でクリスマスを過ごすということはない。
ちゃんとクリスマスのご馳走やケーキを用意されたとしても、それは一瞬にして台無しになる可能性もある。
家族団欒、というものが2年前から徐々に崩壊し、唯一立夏の支えになっていた兄もいない今、家族みんなバラバラだ。

だから立夏はクリスマスの予定を聞かれるのが好きではなかった。
草灯の誘いは立夏の予想範囲外なもので、立夏は不思議そうな顔で草灯を見る。
「クリスマスプレゼントに、デートしてよ」
デートという単語に立夏はミミをぴくりと動かす。
「どこ行くの?」
「ナイショ。でも立夏が沢山写真撮れるところに行こう」
思い出作りが出来ると聞いて、立夏はミミとしっぽをピンとたてる。
「外泊でイヴは一緒に過ごそうね」
こうして、立夏はイヴに草灯とデートをするというクリスマスの予定が出来た。
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12月24日、クリスマス・イヴ──。
人出の多いクリスマス・イヴのデートの後、食事を済ませて予約していたホテルに着くと立夏はコートも脱がずにベッドに倒れ込む。
「遊んで食べたらもう寝ちゃうの?」
コートを脱ぎながら草灯はくすくす笑う。

立夏は22日に終業式で、昨日からもう冬休みに入っている。
実のところ草灯は試験や課題提出もあって、このところ立夏と殆ど会っていなかった。
数回、メールをしただけだ。
それもクリスマスを立夏とデートをする時間を作る為の策だった。
今日は朝から二人で一日遊んで、夕食も済ませて来た。
立夏がずっと楽しそうに笑っていたので草灯も満足している。
「疲れた?」
ベッドの端に座り、寝転がっている立夏の髪を撫でて聞く。
「ちょっとな」
むくっと起きて笑みを見せて答え、コートを脱ごうとする立夏を草灯は手伝い、脱いだ立夏の真っ白なコートをベッドの端に置く。
「一日歩き回ったしね」
「でも写真いっぱい撮れた。プリントしたら草灯にも渡すから」
立夏はしっぽをパタパタと振って、バッグからデジカメを出す。
「うん。立夏、先にシャワー浴びて来たら?」
「そうしようかな」
言うが早いか、デジカメをベッドに置いて降りると、立夏はバスルームに姿を消して、草灯はタバコに火をつける。
プレゼントを渡していないので、まだ眠られては困る。
立夏のコートを掛けたり、ホテルに来る途中でコンビニで買った飲み物を備え付けの冷蔵庫にしまう。
携帯をコートのポケットに入れたままだったことに気付いて取り出すと、切ったままでいた電源を入れようとして、草灯は思い直した。
せっかくの立夏との時間を電話で邪魔されたくない。
シャワーの水音が止まり、しばらくすると立夏が出て来る。

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