Present
「草灯のメアドって、誕生日なの?」
なんとなく不意に気付いて聞いてみると「そう」という短い返事が返ってきた。
以前からそうなんだろうなと思いつつも、確認したことはなかった。
聞いてしまったら、誕生日に何もしないわけにいかない気がする。

しかし、ここで困ったことがひとつ。
立夏は友達もほとんどいないので、誰かの誕生日にプレゼントをあげるということをしたことがない。
その上、相手は年上の大人。
どんなものをあげたらいいのか、さっぱり見当もつかない。

「へぇー、草灯さん誕生日なんだ?」
「それが何あげていいのか全然わかんなくてさ」
学校の帰り道、立夏はユイコに話してみる。
ユイコから手作りのビーズのストラップを草灯とお揃いで貰ったこともあるので、ユイコの方がこういうことは慣れてそうだと思ったからだ。
「じゃあ、わたしも何かプレゼントしようかな」
楽しそうに話すユイコはすでに、「何か」が何なのかを考えているようだ。
「ユイコは何あげるんだ?」
「ナイショ」
えへへ、と笑って答えるユイコに、立夏はむーっと唸る。
でもユイコのことだから、きっとまた手作りの何かなのだろう。
「もう日にちあんまりないし、全然わかんないし」
「立夏くんも何か作ってあげるとか」
「おまえ、オレに出来ると思う?」
手が不器用だと自覚している立夏は手作りのものなど、自分に出来るわけがないと思う。
勉強も運動も得意な立夏の唯一の欠点と言っても過言ではない不器用さは、ユイコも知っている。
いつも図画工作の時間にはみんなが簡単に出来ることすら、立夏は苦労しているのをユイコは側で見ている。
「でもプレゼントって気持ちじゃない?誰かに何かしてあげたいのって、いいことだもん。値段とかじゃないと思う」

時々、ユイコはすごく大切なことに気付かせてくれる。
それはとてもささいなことで、優しい言葉で。
単純にすごいな、と立夏は思ってしまう。
清明のことで自分のことだけしか、考えられない時でもユイコは何も言わないのに気付いて気遣ってくれる。
素直になることが苦手で意地を張ってばかりの立夏にとって、ユイコは肩の力を抜いて楽に話せる大事な友達だ。

学校帰りに公園に寄り道して、ブランコに座って二人で話す。
「そういえば立夏くん、草灯さんにケータイももらってるもんね」
「(そうだ、それもあった)うん」
忘れていたわけではないけれど、やっぱりお礼というか、プレゼントをしたいと思う。
ユイコのように何か作れるわけでもないとなると、やはり買う方向で考えるしかないけれど、小学生の立夏が自由に使える金額はせいぜい知れている。
そんなに高価なものは買えない。
「あ」
「え?」
ユイコが急に声を上げたので立夏はユイコを振り向く。
それと同時にブランコの吊り具に振動が伝わる。
「草灯さん、こんにちはぁ」
立夏は背後を見上げると、草灯がいた。
噂をすれば、というやつだ。
草灯は立夏の座るブランコの後ろに立ち、吊り具を掴んで「こんにちは」とユイコに答えている。
「草灯さん、今欲しいものってありますか?」
「(あっ、バカ!)ユイコ!」
立夏が慌てて呼ぶとユイコは少し驚いてきょとんとしている。
「欲しいもの?特にはないけど…強いて言えば、車かな」
「くるま……」
草灯の答えに立夏とユイコはテンションが下がった声で同時に呟いた。

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