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おもちゃでもあるまいし、そんなもの他人に買ってやる人間なんていない。
相手は大人、欲しいものがあれば、自分で買うことが出来るだろう。
対してこちらは小学生の子供だから欲しいものを聞いたところで、無理があるのは当たり前の話かも知れない。
「なんで?」
「何でもないです」
エヘヘ、とユイコは笑って誤魔化すが、果たして誤魔化せたのかと立夏はどきどきする。
しかし学校に迎えに来てないと思ったら、よく公園にいるとわかったものだ。
ストーカーを自称するだけあるということか。

「オレに欲しいもの聞いてどうするの。なにかの宿題?」
ユイコと別れてから草灯は立夏を家まで送り、一度別れたけれど夜になってから草灯はもう一度立夏の部屋に来た。
草灯に聞かれて、やっぱり誤魔化せてないと立夏はがっくりする。
こっちが聞きたいことは答えてくれないくせに、誤魔化されずに質問してくる草灯に立夏は「ヤダ、こいつ」と思ってしまう。
「なんか聞いちゃいけなかった?」
立夏は、はぁ…と息をついて口を開く。
「草灯の誕生日が近いだろ」
「ああ、そうだったっけ」
あっさりと他人事のように言う草灯を立夏は思わず見る。
「…だから、何プレゼントするかって話」
少しふてくされたような口調だが、頬が赤くなっている。
「なんだ。べつにいいのに」
「おまえ車とか言うんだもん」
「あはは。それは立夏には無理だね」
草灯はそっぽを向いてしまう立夏の細い腕を掴んで引き寄せる。
「立夏」
「ケータイもらったし、だから」
「そんなこと気にしなくていいよ。あれはオレが立夏につながれたかっただけだから」
イヤそうにする立夏に構わず草灯は細い体を抱き寄せる。
「欲しいもの、ないの?他に」
「いいよ、気持ちだけで十分です」
ありがとう、と言って草灯は立夏のこめかみに口づける。
ふと立夏は草灯の耳に光るピアスが目に入る。
透明の小さな石がついたピアスが部屋の照明を反射して、キラキラと光っている。
(ピアス…いいかも知れない)
「なに?」
視線に気付いて聞いてくる草灯に、立夏は「なんでもない」と答えた。

草灯にピアスを開けてやったのは、自分だった。
人の体に傷をつけるのが怖くて、嫌だと断ったけれど。
「証だよ
立夏がしてくれたら見るたび思い出す
思い出だよ」
そう言う草灯の耳にピアスを打ちこんだ後、手どころか体が震えた。
人の体に傷つけるなんて、もうあの一度きりでいい。

翌日、立夏はユイコに話してみる。
「ピアスかぁ。いいかも知れないね」
「でさ、どんなのがいいかオレわかんないから、買いに行くのつきあってくれない?」
ユイコもピアスをしているので頼んでみると、ユイコはすごい勢いで振り向く。
「エ!?いいのっ!?」
「(は?聞いてんのはこっちなんだけど)うん」
「行く!一緒に行こうっ」
「サンキュ。助かる」
こっそり、デートだ、とユイコが喜んでいることに立夏は気付かないまま、日曜日に一緒にプレゼントを買いに行くことになった。

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