のろけ話
昼過ぎに学校に行くとキオが女の子たちに何やら配っていた。
「今日はホワイトデーだろ?一応おかえし」

キオは気配りがきくタイプで、こういうところはマメだ。
同じゼミの女の子たちからは、1ヶ月前のバレンタインデーにチョコを貰っている。
だが、それは大きな詰め合わせだったり、バラエティパックのチョコで「置いておくから勝手に食べてね」というもので、1人1人に手渡されたものではない。
しかし殆ど食べたのは用意した彼女たちだった。
ちゃんと1人ずつに手渡ししておかえしするところが、キオらしい。

「草ちゃんにもあげる」
「やっぱりコレなんだ?」
ホワイトデーといえば、クッキーやキャンディ、マシュマロが定番だが、キオが配っているのは、もはや「キオといえば」のアイテムのチュッパだ。
「草ちゃんは用意してないの?」
「忘れてた」
2人して壁に寄りかかって座り、チュッパを舐めながら話す。
「草ちゃんてそうゆうヤツだよな」
暗にダメなヤツと言われたような気がして、草灯は軽く苦笑して言う。
「立夏にあげる分は用意してあるけど」
「そうゆうヤツだよな!」
さっきと同じ台詞を眉を寄せて強い語調でキオは言う。

今日が14日だということをすっかり忘れていた。
しかも2月と3月は日付けと曜日が同じなので、今日も先月と同じく水曜日。
立夏の都合の悪い日だ。
夜に立夏の部屋に行って渡せばいいかと草灯が考える。

女の子への義理チョコのおかえしは忘れても、立夏へのおかえしは忘れていないというところが草灯らしい──なんて思うくらい、慣らされてるなとキオは思った。
だけど本命がいるなら、それが普通なのかも知れない。
そこでキオはあることに気づく。
「ちょっと待った。立夏の分はあるってことは、バレンタインに立夏からチョコもらったのか?」
「うん。ちっちゃいチロルチョコを」
人差し指と親指で輪を作って大きさを表わし、草灯は答える。
「へ〜。立夏が、ねぇ」
キオは何となく驚きというか感心した。


立夏は見た目こそ可愛いけれど、中身はしっかりした男の子だ。
最近は男もバレンタインに女性にチョコを贈ることは珍しくないが、やはり女子のイベントという印象が強い。
立夏の性格からしてバレンタインに男にチョコをあげる、というのはキオには想像がつかなかったから、驚きだ。
やっぱり何だかんだいっても、立夏も草灯のことを好きなのかと感心してしまった。
それがちっぽけなものでも、立夏からバレンタインにチョコを貰えた、ということが重要なのだ。

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