LOVE LETTER
3月14日、ホワイト・デー。
立夏はバレンタイン・デーにユイコと勝子先生からチョコを貰ったので、そのおかえしをした。
ユイコには小さなクマのマスコット・キーホルダーとクッキーのセットを選んだ。
勝子先生は大人の女の人だから何がいいか迷ったけれど、キャンディが入ったミニ・ポーチにした。

ユイコも喜んでくれた。
今日は水曜日でちょうどカウンセリングの日なので、ホワイトデー当日に勝子先生に渡すことが出来た。
勝子先生も喜んでくれたようだ。

そして、帰宅した立夏は夕食と入浴を済ませた後、机の引き出しにしまってある、ある物の存在を気にかけながらちらちらと時計を気にして時間を過ごす。

引き出しにはもうひとつ、リボンがかかったホワイトデーのおかえしが入っている。
それを渡す相手には、会う約束はしていない。
やっぱり連絡をするべきだったかな、と思う。
こういうものは当日に渡さないと、やっぱりダメな気がする。
それにバレンタインにチョコを食べさせてもらったのだから、きちんとおかえしを用意していたから、どうしても今日渡したい。

立夏は読んでいた本を閉じて折りたたみの携帯電話を開いた。
コール音が数回で電話が繋がる。
「もしもし?」
「あのさ…今、忙しい?」
「大丈夫だよ」
「じゃあ、さ…ウチに来れない?」
ホワイトデーのおかえしを取りに来いというのも、おかしな気がする。
やっぱり事前に会う約束をしておくべきだったなと思うが、今そんな後悔をしても遅い。
電話の向こうでくすっと笑って草灯が言う。
「会いたい?」
会いたいのかと聞かれて立夏はかぁっと顔が熱くなる。
「そうじゃなくて…いや、違わないのか…?」
「どっちなの?」
くすくすと笑いながら問われ、こちらの反応を楽しんでいるような気がして、立夏はむっとする。
「いいから。来るの?来ないの?」
「立夏が会いたいって言ってくれたら、すぐに行くよ」
(なんか、それって…命令なんじゃん…?)
ベッドの上で立夏は足の指を開いたり握ったりして黙り込む。
「立夏?聞いてる?」
「聞いてるよ…。でも、なんか、そうゆうの、命令してるみたいだし…」
「どうして来て欲しいと思ったの。会いたいからじゃないの?」
「っていうか…用事があって…」
会いたいというよりも、渡したいものがあるから。
だけど渡したいものがあるということは、取りに来いと言っているようなものだから、それは避けたいだけなのだが。
渡したいものがあるということが会いたいというのと同じなのか違うのか、違うのならどう違うのか、立夏にはよくわからない。
「希望であれ命令であれ、オレは立夏に来いって言われればどっちでも嬉しいんだけどな」
草灯の言葉に立夏は嬉しいような照れ臭いような気持ちになって、長い尾を無意識に揺らす。
「それで、用事って?」
「えっと…来てから…」
「そう。じゃあ…」
あれ?と立夏は思う。
声が近い、というより二重に聞こえる。
そのことに気づいたと同時に、ベランダの窓をノックする音がして立夏は携帯を通話状態のままベッドに放り出して、カーテンを開けた。
「…来るんなら来るって、言えばいいのに…」
鍵を外して窓を開けて立夏はベランダに立つ長躯を見上げて言う。
その表情は呆れてるような、照れているような顔だ。おそらく、その両方の気持ちなのだろう。
「来る途中に電話がきたから。オレが来るのを待っててくれたのかなって。だから聞きたかったんだよ」
柔らかい笑みで話す草灯に立夏はそわそわとしっぽを揺らす。

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