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今日は来ないのかと気にかけていたから、待っていたのだということを、言われて自覚してしまった。
だけど「待ってた」という言葉をどうしても言いにくい。
簡単な言葉なのにひどく難しく感じるのは、やっぱり口に出すのが恥かしいという感情が先に立ってしまうからだ。

待ってたと言えないで、抱きつきたくなった。
理由もなく抱きつくのも躊躇ってしまい、もじもじしていた立夏は草灯が着ているコートの袖をつまんで引っ張る。
「寒いから、入れよ」
草灯が部屋に上がる間に立夏は机の引き出しから、渡すものを取り出そうとすると、腕を掴まれる。
「はい、これ」
目の前に差し出された物に立夏はぱちぱちと早い瞬きをする。
草灯が差し出したのは赤に白のドット模様のクマのぬいぐるみだ。
クマのぬいぐるみは真っ赤なハートのボックスを抱えている格好をしている。
「……なに?…え?」
立夏は何事かと理解出来ずに呟く。
「今日はホワイト・デーでしょ」
立夏はぼーっとしてクマを見つめ、「ああ…」と答えてからまた「えっ?」と呟いて、我に返ったように顔を上げる。
「って、オレあんな…」

立夏があげたのは1個10円のチロルチョコ数個。
たまたま持ち合わせがなくてそれしか買えなかった。
本当はもっとちゃんとしたものをあげたかったのだけど。
そのおかえしにしては、モノが立派すぎる。

「立夏がくれたっていうことが大事だから。オレはすごく嬉しかったし、嬉しかった気持ちを伝えるためのものだから」
「…ありがと…」
立夏はミミを少し寝かせ、頬を染めてクマを受け取る。
しっぽを振っていることから喜んでくれているようだと草灯は解釈する。
「あ、そうだ」
立夏は踵を返し机の引き出しから包みを取り出す。
「オレも。ホワイト・デーのおかえし」
白い袋の口にグリーンのリボンが結んである包みを立夏から差し出され、草灯はそれを受け取る。
「開けてもいい?」
「ダメ」
リボンを解こうとしていた草灯はぴたりと手を止める。
「ダメなの?」
「家に帰ってから…」
「家に帰ったら、あの2人がいるけど」
草灯が言うと立夏は声を出さずに口を「あ」の形に開く。
「じゃあ…いいよ、開けても…」
立夏は床にぺたんと座ってクマのミミをつまむ。
草灯はリボンを解いて袋を開ける。

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