celebrate one's birthday
深夜、23時、もうあと少しで日付けが変わる──。
明かりが消えた建物が多いせいか、住宅街は暗く感じる。
この時間なら立夏はきっともう、夢の中だ。
立夏は早起きだから22時を過ぎると、起きていられないから。
青柳邸の前に着くと2階のベランダを見上げる。
やはり窓に明かりはなく暗い。
雨どいに手をかけ、2階のベランダへ登る。
窓の鍵に目をやると施錠されていないことにクスと笑い、静かに窓を開ける。
2階だといってもこうして容易く侵入出来てしまうのだから、施錠しないなんて無防備すぎる。
(でもまあ、今日は開いててよかった)
立夏が鍵をかけ忘れてくれたおかげで、目的は果たせそうだ。

暗い室内の壁に沿って置かれたベッドの上、布団の塊に近づく。
(また丸くなっちゃって)
黒い子猫は眠る時、丸くなっていることが多い。
布団の中で胎児のように手足を縮めて眠る立夏の頬に触る。
ぴくん、と獣耳が震えた。
「ん、ん……」
なんとなく悩ましげに聞こえるのは、自分がヨコシマな感情があるせいだろうか?
薄く開いている唇にゆっくりと唇を重ね、キスする。
「…ん…」
あどけない唇から零れる吐息すら愛しいと思う。
その唇が音なく言葉を発する。
声になってない言葉だが、唇の動きを読むことは出来た。
草灯は思わずふっ…と笑みを洩らす。

眠っていてもキスしたのはわかったのだろうか?
立夏が口にした声にならない言葉は3文字。
『そうび』──と呼んだと思う。
推測だけど、多分。

「立夏…」
静かに呼びかけて細い肩を揺すって呼びかける。
「立夏、起きて」
「ぅ、んン……」
ぴくぴくとミミを動かし、立夏は半覚醒の状態のようだ。
「起きて…立夏」
立夏は目を開けては閉じ、眠そうに目を開けようとしている。
「……そぅび…?なに…」
体を抱き起こして空いた場所に座ると、立夏は寄り掛かりながら目をごしごし擦る。
「なんだよ…?眠いのに…なんでいるんだよ…」
状況がわからないまま草灯にもたれ掛かるようにして、立夏はそれでも起こされたことに不満を言う。
「ゴメンね?起こして。どうしても、立夏に会いたかったんだ。
すぐ済むから、起きて?」
階下に居るであろう母親に悟られぬよう、草灯は立夏の肩を抱き、静かに話し掛ける。
抱えて支えていないと立夏は座ってもいられないらしく、半分眠っているようだ。
外気を纏う草灯と触れ合っている体が、眠って体温が高くなっている立夏には冷たく感じて震える。
震える立夏の肩や背中をさすりながら草灯は告げる。
「立夏、もうすぐ午前0時だよ。日付けが変わる」
枕元の目覚まし時計を見せるが、今の立夏にはどうでもいいらしく反応がない。
「0時になったら立夏の誕生日」
「……誕生日…オレの?」
ようやく少し頭が起きてきたのか、立夏は聞き返す。

やっと草灯の意図が立夏にもわかった。
0時に誰よりも真っ先に直接、祝いたくて草灯は来たのだ。
わざわざ夜中に、寝ているところを起こしてまで。
でも嬉しい。

暗い部屋の中で立夏の長い尾はシーツを撫でる。
そして、時計の針が午前0時でぴったりと長針と短針が重なった。

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