秘密の楽しみ
「草ちゃん!終わったぞ」
「んー…」
授業が終わりキオは草灯の肩を揺すって起こす。
このところ、草灯はかなり疲れているらしく授業中寝ていることが多い。
クリスマスが近いこの時期、みんなこんな感じだ。
彼氏、彼女にプレゼントを渡すべくバイトをしているのだが、学校の方も課題やレポートもあって、みんな寝不足になっている。
「みんな今時期クリスマスのためにバイトで疲れてるけど、草ちゃんもバイトでもしてんの?」
「そうじゃないんだけどね」
「寝る間も惜しんで何やってんのさ」
教室を出て廊下を歩きながらキオは呆れ口調で言って、ハッとする。
そして隣を歩く草灯をちらっと横目で見ると、目が合った。
「なに?」
「まさか?まさか!草ちゃん!そんなに毎日寝不足になるなんて…り、り…立夏を…っ」
がしっと腕を掴んで追及してくるキオに草灯はきょとんとしてから、苦笑いして腕を掴むキオの手を解く。
寝不足になる理由を誤解しているらしい親友に草灯は言う。
「何考えてるの」
「だってバイトしてるわけでもないのに、おかしいじゃん」
「だからって、どうしてソッチに話が飛ぶのかな。すぐにそういう方に考える方がイヤラシイよね」
喫煙出来る休憩場所に着くと、空いている椅子に座ってタバコに火をつける草灯に、キオはウッと声を詰まらせる。
「じゃあ、なんでそんなに毎日眠そうなのさ?」
座った膝に腕を乗せて顔を覗き込んで聞いてみると、草灯はふっと笑う。
「理由は他の人と変わらないかもね」
「へ?だってバイトしてるわけじゃないって」
「バイトじゃないけど、プレゼントの用意してるから」
「ふぅん…。それってやっぱり立夏?」
キオはここ最近、草灯がご執心な相手の名前を挙げると、草灯は笑みを浮かべる。
「誕生日なんだ」
「へェー。誕生日?この時期だとクリスマスと一緒にされそうだな」
「誕生日とクリスマスは別でしょ。だからプレゼントが2つ必要なんだ」
短くなったタバコを灰皿に押し付けて火を消しながら草灯は答える。

たいてい、12月25日前後の誕生日の者は、誕生日とクリスマスを一緒にされることが多くて、誕生日そのものを祝ってもらうことが少ないという話をよく聞く。
それは年末の忙しく何かと出費が多い時期に、家族も誕生日とクリスマスを別々に、というのが大変だからだ。
家族ですら別々に祝ってくれないものを友達が…というのも難しいらしく、プレゼントは誕生日兼クリスマスになることが多い。
この時期に生まれると損だという話の方がよく聞く。
ちゃんと誕生日は別で祝ってやりたいという時点で、やはり草灯にとって立夏という存在は特別なのだろうとキオは思う。

バッグの中をごそごそと探り、キオはいつものようにチュッパを取り出して1本を草灯に「疲れてる時は甘いモノ」と言って差し出す。
2人して包み紙を剥がしてチュッパを舐めながら話す。
「別々に祝うとなると大変だな」
「そうなんだ。大変なんです」
「で、なんで寝不足なわけ?バイトしてるわけじゃないんだろ?」
「生まれた日のお祝いだし。やっぱり記念になるものをあげたいと思って、ね」
草灯の話にキオはチュッパを舐めながら、ふんふんと頷く。
「絵、描いてるんだけど、チビどもからバレないように寝てから描いてるから眠くて…」
「なるほどね。そういうワケか」

草灯の家には奈津生と瑶二の2人がいる。
2人から立夏へのプレゼントが何かバレないように、2人が寝ている夜中に絵を描いているので、草灯は寝不足なのだ。
学校から帰宅すれば育ち盛りの仔猫2人は「ハラ減った」と騒ぐので、夕食を食べさせて2人が寝る時間まで寝ているが、ここ何日かは数時間しか寝ていないので学校で授業中に寝てしまう状態が続いていると草灯は話す。

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