JOY
「立夏くん、眠そうだね。今日はずっとあくびしてたし」
くすくすと笑いながらも、ユイコは「大丈夫?」と聞いてくる。
「ん、平気。ゆうべ、寝るの遅かったからさ」

12月21日、今日は立夏の誕生日だ。

昨夜、遅くまで立夏は草灯といたせいもあって、今日は一日中あくびばかりだった。
ようやく授業も終わり、放課後に掃除当番を終えた立夏はユイコと学校を出る。
校門の影に長身の人物。
昨日、来ると珍しく予告して、予告通りに迎えに来たらしい。
「立夏!」
こちらに気付くと草灯が呼ぶ。

本当に来てくれたことを嬉しいと思いながらも、立夏は嬉しがってみせるのは恥ずかしくて顔に出さないように、平静を保つ。
無意識にしっぽなんか振ったりしないように、注意する。
嬉しがってるなんて草灯に知れたら、恥ずかしいのもあるし、何だか悔しいから。

草灯も合流してユイコの家に3人で向かった。
ユイコの家は両親は共働きで、夜にならないと帰宅しない。
いわゆる「鍵っ子」というやつだ。
ユイコの家に着くとささやかながら、立夏の誕生日パーティーを開く。
草灯は小さな箱を持っていて、テーブルにその箱から小さなケーキを取り出してロウソクを12本立てて火をつけた。
ハッピーバースデーの歌を手拍子付きで歌おうとするユイコに、立夏は待ったをかける。
「歌はいいよ(照れくさいし)」
「なんでー?」
歌はいらないという立夏にユイコは少し不満そうだ。
「年に一度のことなんだから」と草灯は歌う気はまったくないが、ユイコの肩を持つ。
ただ単に照れる立夏が可愛いだけなのだが。
ユイコが歌う間中、立夏は視線を泳がせたりミミをぴくぴくと動かしたり、落ち着かない様子でいたが、歌が終わると照れながらもロウソクの火を一息で吹き消した。
「立夏くん、お誕生日おめでとう」
パチパチと拍手をしながらユイコが言い、立夏は少し頬を赤らめながら「ありがとう」と答えた。
草灯はロウソクを小さなケーキから取ると、切り分けて子供たちに食べさせる。
「草灯さんは食べないんですか?」
「オレはいいよ。そんなに甘いものは得意ではないから」
嫌いではないが、好んで食べようとは思わないのだ。
そう思い、二人で分けてちょうどいいサイズのケーキを選んで来た。
ユイコと立夏はケーキを食べながらおいしいと話している。
「食べてるところに何だけど…。
はい、これ。プレゼント」
持って来た紙袋から、シンプルな長方形の包みを取り出し、立夏へ差し出す。
「いいって言ったのに」
「オレがあげたかったんだよ」
そう言ってにっこりと草灯は笑う。
「開けてみて?」
促されて立夏はブルーのリボンを解き、白い包装紙を外して中の箱を開けてみる。
「わァ〜。きれいだねー」

草灯がくれたプレゼントはペンダントだった。
銀色の切れそうに細い鎖と銀色のアルファベットの「R」の形をしたペンダントだ。
「R」の文字に青い石がはめ込まれている。

「それはね、ターコイズ。立夏の、12月の誕生石だよ。Rはもちろん、立夏のイニシャル」
「誕生石……」

生まれ月によって異なる誕生石があることは、立夏も知っている。
だけど、自分の生まれ月の石が何かまでは知らなかった。
きれいな光沢のある水色の石だ。

とても、小学生にプレゼントするような代物ではないな、と立夏は思う。
値段を推測するなど無粋だし、プレゼントは価格ではないけれど。
小学生の自分にこんなきれいなものをくれるなんて、なんだか似合いそうもなくて…。
もったいないと思う。

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