BELOVED
11月14日は兄、清明の誕生日だ。
立夏は小遣いで清明へのプレゼントを買った。
プレゼントは図書カード。
それと学校の授業で作ったブックマーカーだ。
いつも読書をしている清明のためのプレゼントだ。
本当はもっといいものをあげたいけど、立夏が使える金額はそう多くはない。
薄っぺらな封筒は軽いけど、清明に対する気持ちはもっとずっと大きいものだ。
それでも優しい兄になにかしてあげたい。
大好きな兄が生まれた日は立夏にとって特別な日だ。

(早く帰って来ないかな)
そう思いながら立夏は兄の帰りを待つ。
時々、清明は帰りが遅い日があるが、今日も遅いようだ。
夕方、母親に殴られて切れてしまった唇の端やねじ上げられた腕を摩る。
「痛くない…」

痛くないよ、大丈夫。
清明がいてくれたら平気だ。
でも清明の帰りが遅くてよかったかも知れない。
誕生日に母親がおかしくなるなんて、清明だってイヤなはずだ。

「立夏」だったら清明にどんなプレゼントをあげるんだろう?
「立夏」がいたら家族でお祝いしたりするのだろうか?
自分のせいで母親は時々暴れたりする。
おかげで家族の団欒というものはこの家にはない。
「立夏」がいたらもっと普通の家みたいに…。
(普通の家ってどんなかわかんないけど)

「母さんがおかしくなったら外に出なさい」
兄に言われた通り立夏は玄関の外で清明を待つ。
肌寒くて膝を抱えて待つうちに、眠くなってくる。
こんな場所で寝ちゃいけないと思いながらも、睡魔に勝てず寝てしまう。

「…立夏」
「ん…」
肩を揺すられて立夏は目を覚ます。
目を開けて顔を上げると目の前に兄がしゃがんでいた。
「立夏、こんなところで寝ちゃダメだよ」
「…清明?おかえり」
帰りを待っていたとわかったが、何故外で待っていたのか立夏の顔を見てすぐに清明は理由がわかった。
今朝はなかった殴られた痕がある。
「寒かっただろう?さぁ中に入ろう」
「ウン。あっ、清明」
清明は立夏の手を取って立ち上がる。
「話は後で聞いてあげるから。手が冷たい。こんなに冷えて…」
両手を包むように握る清明の手が暖かい。
「平気だよ」
「母さんがまた暴れたんだね」
家の中に入ると立夏はどきどきする。

next≫
≪季節行事menu
小説トップ
HOME
無料ホームページ掲示板