killing me
背が低いと不利だ──そう思いながら立夏は書店の本棚を見上げる。

目当ての本を見つけたが問題がひとつ。
背伸びをして頭よりも高い棚に置いてある目当ての本に手を伸ばす。
(くっ…届かない…っ)
あともう少しで届きそうなのに、目一杯背伸びして腕を伸ばしても、本の背表紙に指先がかするだけ。
するとフッと影が出来て目当ての本をスッと取り、差し出される。
「これでいいのかな?」
「………」
隣に立つ長身を立夏は見上げた。

草灯はすごく身長が高いから。
背が高いと、苦労なんかしないんだろうなと思う。

「別な本だった?」
「…ううん。サンキュ。これでいい」
そう答えながら立夏は草灯が取ってくれた本を受け取る。

さっきまで離れた所にいたのに、いつの間にかそばに来ていた。
離れていても目は届いているらしい。

背が高い草灯はどこにいてもたいてい、居場所がわかる。
さっきも立夏から草灯の後ろ姿は見えていた。
背が高いから、こちらが背が低くても見渡せるのだろう。

(うーん…欲しいけど高いなぁ)
ハードカバーの本は一冊が高価だ。
持ち合わせの所持金では買えないことはないが、缶ジュース一本分くらいしか残金がなくなる。
図書館に入るまで待つかと考える。
だけど、取ってもらった本を「やっぱりやめた」と戻すのも、自分では本棚に戻せそうもないし、戻してとはちょっと言い出し難い。

「それ買うの?」
「っうわ…」
背後から屈んで話しかけると、立夏は大袈裟にびくっとする。
「驚かしちゃった?」
静かな書店であまり大きな声で話すのは、雰囲気上憚られるのでそうしたのだが。
草灯を立夏はぐいっと両手でその体を押し返す。
「あんまり近寄るなよ」
「なんで?」
「なんででも!」
「理由もなく避けられると悲しいなぁ」
そんなことを言いながら草灯は立夏が持っていた本をひょいと取り上げ、そのまま自分の選んだ本と一緒にレジに差し出す。
「こっち、別でお願いします」
立夏は自分の本を取り分けてレジの店員に言うと、草灯は再度それを一緒にする。
「立夏、お姉さんが困ってるから」
会計を別にするか一緒にするか目の前で意見が分かれる二人に店員は困った顔をしている。
草灯は「一緒で」と言って会計を済ませてしまう。

「遠慮深いね、立夏は」
「奢られてばっかじゃ悪いだろ」
書店を出て歩きながら話す。
(でも払うとこの後どこも行けないな…)
今日はお昼を食べて映画を見る予定なのだ。
映画は草灯がチケットを貰ったらしく、タダらしいが食事をすると本の代金を返せない。
「じゃあキスして」
「──…ヤダ(言うと思った…だからイヤなんだって)」
むー、と立夏は眉根を寄せる。

草灯と一緒だと買い物も草灯が払ってしまうし、買った物も草灯が持つ。
そんな風にいつも何かをしてもらってばかりで、それを当たり前のようには思いたくない。

「遠慮なんてしなくてもいいのに。立夏は子供なんだし」
「オレはそういうのイヤなの!子供だからってなんでもしてもらって当然みたいなのは」

本音を言えば草灯に頼り過ぎるのが嫌なのだ。
草灯は何でも望めばしてくれると言う。
草灯がいいと言っても、頼って便利使いするのは嫌だと思う。

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