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欲しい本があるからと書店に寄り、目当ての本を手にすると草灯が言う。
「その本ならウチにあるよ。貸そうか?」
「えっ?」
「もう読んだから」

続きものですでに3冊出版されており、まだ小学生の立夏が買うには1冊自体が高い。
図書館で貸し出しを待っていたのだが、その本は話題の作品でいつも貸し出し中になっていて、高いので正直、どうしようか迷っていたのだ。
戦闘機は言葉を多く知ること、単語の意味を理解すること、言葉や単語のイメージやインスピレーションがとても重要で、強さにも繋がる。
読書はそれらの訓練にもなり、ゆえに草灯は本をよく読むのだという。

貸してくれるというならありがたい話だ。
立夏は言葉に甘えることにして、本を借りに草灯の家に行く。

「はい」
草灯の家に着くと差し出された3冊の目当ての本を立夏は受け取る。
「何か飲む?ミルクティーでいいかな」
「うん」
答えながら立夏は早速本を開く。
不意に「ニャー」と猫の鳴き声が耳に入り、立夏は顔を上げる。
猫の鳴き声は珍しくはないが、かなり近くで聞こえた。
カリカリ、とひっかく音がして見回すと、窓の外に黒い猫がいるのを見つける。
「草灯、猫が来てるんだけど…。入れて欲しそう」
「ああ、りつかだ」
お茶のカップを立夏に渡し、草灯は窓へ向かう。
「……は…?」
窓を開けて草灯は黒い猫を抱いて戻って来る。
「猫の“りつか”です」
そう言って抱いている猫を指差す草灯に立夏は「はぁ!?」と聞き返す。
「おまえ、なに勝手に人の名前つけてんだよ!?」
「べつにいいじゃない」
しれっと答える草灯はさらに「立夏に似てるし」などと言う。
「どこが!?」
「黒猫だから?」
「………。(バカじゃねぇの)」
立夏は呆れて絶句してしまう。

確かに立夏のミミもしっぽも髪も真っ黒だ。
だけど黒い猫というだけで名前をつけてしまうなんて。

「飼ってるのか?」
草灯が床に下ろすと猫は人なつっこく立夏に擦り寄ってきて、立夏はその頭を撫でながら聞く。
その猫はまだ体が小さく、大人になりきってはいない。
首輪はしていないが、毛並みはきれいだ。
それに野良猫ならこんな風に人なつっこくはないだろう。
「飼ってはいない。たまに来るだけだよ。毛もきれいだから飼い主はいるみたいだね」

この猫はたまたま、夜に窓を開けていたら迷いこんだらしく家に入って来て、草灯はそのうち出て行くだろうと気にしないでいたら、一晩眠っていった。
以来、たまに来ては休んだりしていくようになったと草灯は話す。

「りつか、ミルクあげようか」
「だから、その呼び名はやめろよ」
「どうして」
「紛らわしいから!」
一人の時にどう呼んでいようが自由かも知れないが、本人がいる前では紛らわしい。
それに、猫に自分の名をつけて可愛がってるなんて、なんだか複雑な気分だ。

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