秘密の共有
草灯は立夏の机の上で、一冊のノートを見つけた。
無造作に置かれたそのノートは、立夏の趣味とは思えなかった。だからこそ、気にかかった。
「これ、立夏の?」
「まさか。オレはそんなやかましい柄のノートなんか買わないよ」
立夏の返事は思った通りだ。
と、なれば…。
「ユイコだよ。あいつ、交換日記やろうなんて言いだしてさ」
ふー…と立夏は息をつく。
「へえー。交換日記ね」
ユイコらしいなと草灯も思う。
ノートの柄もユイコらしい。
しかし、ユイコとの交換日記なんて、もう一人が黙っていないのではないだろうか?
「あのコは?ほら、眼鏡の髪が長い…」
「ああ、弥生さん?ユイコと交換日記するって知ったら、参加させて欲しいとか言ってきて。オレは面倒だしイヤだったんだけど弥生さんがやりたいって言って、2人に説得されて無理矢理っていうか」
交換日記をするハメになったいきさつを、立夏はそんな風に話す。
なるほど、と草灯も納得がいった。

草灯の目から見た立夏の周りの関係図はこうだ。
ユイコは立夏が好きで、弥生さんはユイコが好き。
3人の中での矢印は一方通行で、立夏はといえば…誰の目から見てもユイコが立夏を好きなのは、一目瞭然なのに立夏本人はユイコの気持ちに気付いていないようだ。

ユイコは立夏と交換日記をしたがっていたが、それを知った弥生がユイコと交換日記をしたいがために、立夏を誘ったとしか思えない。
そしてそれは間違いではないのだろう。

「交換日記ね。何のためにしてるの?」
「友達だから、色々知りたいんだってさ」
「オレも立夏のこと知りたいな」
草灯が言うと立夏は顔を上げる。
「オレのこと?」
「うん、そう。立夏のこと、もっと知りたい」
「まあ…オレだって草灯のことは、なんにも知らないけど…」

草灯のことで立夏が知っていることは、8つ年上で美大に通っているということ。
そのくらいしか知らない。
だから立夏も草灯のことを知りたいとは思う。

「じゃあ、オレとも交換日記しようよ」
「えええええ…(草灯と?)」
あからさまにイヤそうな顔をする立夏に草灯はにっこりと笑って言う。
「ユイコちゃんたちと出来てるなら、オレとだって出来るよね?」
う……」
断る理由がなくて立夏はミミを伏せる。
そこへ駄目押しの一言を草灯は告げる。
「日記も思い出づくりでしょ?」
にっこりと笑って言うと立夏は頬を少し染めて、それでもさっきほどの拒否感はなくなり、しっぽを揺らす。
やはり、立夏には『思い出づくり』というスペルは、かなりの確率でもって有効になるようだ。

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